判旨
会社の不動産を一時的に個人名義に移し、直ちに返還する旨の口頭約束は、他人の面目を立てるという動機のみでは取引通念上不自然であり、特段の事情がない限り、安易に契約の成立を認めることはできない。
問題の所在(論点)
「面目を立てる」という抽象的な動機に基づき、会社所有の不動産を一時的に個人名義に移した上で直ちに返還させるという非合理な内容の口頭契約について、特段の事情を考慮せずに成立を認めることができるか。
規範
契約成立の成否が争われる場合、当該約束の内容が当事者の属性や状況に照らして「取引の通念上たやすく納得し得られるか」という観点から、経験則に照らして合理的な判断を下さなければならない。特に、重要財産の移転を伴う合意が書面によらず口頭のみでなされた場合、その動機や経緯に合理的な裏付け(特段の事由)を要する。
重要事実
被上告会社の旧社長であった上告人と新社長との間で、決算書から脱漏していた本件建物の所有権帰属を巡り紛争が生じた。株主総会の議長の仲裁により、会社は上告人の「面目を立てる」趣旨で、一旦上告人名義に登記を移すが、上告人は直ちにこれを会社に返還する旨を口頭で約束したとされる。原審はこの口頭の約束に基づき、所有権返還を認めた。
あてはめ
本件において、他人の面子を立てるという動機だけで、会社所有の不動産を登記簿上一時的に個人名義に移し、直ちに返還させるという契約は、取引の通念上不自然である。また、このような重要な約束を株主総会という公の場でありながら書面を作成せず口頭のみで行った点も、通常想定し難い。原審は、これらの不自然さを解消する「特段な事由」を具体的に検討することなく、漫然と契約の成立を判断しており、経験則に照らした審理が尽くされていないといえる。
結論
取引通念に反する不自然な内容の口頭契約について、その成立を肯定した原判決には審理不尽・理由不備の違法があり、破棄を免れない。
事件番号: 昭和32(オ)322 / 裁判年月日: 昭和34年6月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭債務の担保としての代物弁済契約において、目的物の価格が債務額を著しく超過する場合であっても、公序良俗違反等の特段の事情がない限り有効であり、家屋明渡し遅延に関する損害賠償額の予定も原則として有効である。 第1 事案の概要:上告人(債務者)は、約20万円の借入金等の債務を担保するため、時価100…
実務上の射程
契約成立の存否(意思表示の有無)が争点となる事案において、主張される合意内容が「経済的合理性」や「取引上の通念」に反する場合、裁判所は慎重な事実認定をすべきであるという枠組みを示す。実務上は、書面のない不動産移転等の不自然な合意の成立を否定する際の有力な指針となる。
事件番号: 昭和34(オ)868 / 裁判年月日: 昭和35年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有権の帰属に関し、家賃取立の実績等の事実が認められる場合であっても、他の証拠により導かれる所有権の推定を直ちに覆すに足りるものではない。 第1 事案の概要:本件建物の所有権の帰属をめぐり、上告人(控訴人)は、自らが家賃の取立を行ってきた事実などを主張し、証拠を提出して自らの所有を主張した。…
事件番号: 昭和25(オ)141 / 裁判年月日: 昭和28年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書は、本人又はその代理人の署名又は捺印があるときは、民事訴訟法第228条第4項(旧326条)により、その成立が真正であるものと推定される。 第1 事案の概要:本件家屋の売買代金残額2000円の授受等をめぐる紛争において、証拠として提出された私文書(甲第8号証の1、2)について、上告人の署名捺印…
事件番号: 昭和36(オ)675 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間に契約の成立を希望する意思の合致があったとしても、直ちに契約が成立したと認めることはできず、確定的に契約の締結に至ったか否かは、当時の実情や動機等の事実関係を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、建物の所有者である被上告人に対し、今後半年から2年の間に当該建物を買い受ける…
事件番号: 昭和34(オ)1210 / 裁判年月日: 昭和36年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が当事者の主張した日時や形式とは異なる態様で契約の成立を認定しても、それが当事者の主張の範囲内における事実の評価にすぎない場合には、弁論主義に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(建築主)が、上告人(施工者)に対し、建物建築請負契約に基づき建物の引渡し等を求めた事案。被上告人は「昭和24年…