判旨
裁判所が当事者の主張した日時や形式とは異なる態様で契約の成立を認定しても、それが当事者の主張の範囲内における事実の評価にすぎない場合には、弁論主義に反しない。
問題の所在(論点)
裁判所が、当事者が主張した契約成立の日時・態様とは異なる事実を認定した場合、または一方の当事者が主張する法的性質(更改)とは異なる性質(変更)を認定した場合に、弁論主義に違反するか。
規範
裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない(弁論主義第1テーゼ)。もっとも、主張された事実と認定された事実との間に多少の差異があっても、それが当事者の主張の合理的な解釈の範囲内であり、かつ相手方に不意打ちを与えるものでない限り、弁論主義には反しない。
重要事実
被上告人(建築主)が、上告人(施工者)に対し、建物建築請負契約に基づき建物の引渡し等を求めた事案。被上告人は「昭和24年12月中旬の口頭による合意」を主張したが、上告人は「同年12月27日の書面作成による合意」を主張した。原審は、上告人の主張に沿って書面による契約成立を認定した。また、その後の契約内容の変更についても、上告人が「当事者の交替による更改」を主張したのに対し、原審は「単なる契約内容の変更」であると認定した。
あてはめ
本件では、被上告人と上告人の双方が交渉過程における合意の存在自体は認めており、いずれの時点の合意を契約の内容とするかという主張の対立にすぎない。原審が証拠に基づき、上告人が提示した書面による合意を契約の基礎と認定したことは、当事者が主張する交渉過程の一時点を捉えたものであり、当事者の主張の範囲内といえる。また、契約内容の変更についても、被上告人の主張事実に照応する範囲での認定であり、当事者が主張しない事実を基礎としたものではない。
結論
原審の事実認定は当事者の主張の範囲内においてなされたものであり、弁論主義の違反(申立てない事項についての裁判)には当たらない。
事件番号: 昭和33(オ)860 / 裁判年月日: 昭和35年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請求の主要な争点である事実が認められない場合には、その余の事実関係を確定することなく直ちに請求を棄却することができる。裁判所が主要事実の存否につき証拠を検討し、これを認められないと判断した過程に自由心証の逸脱がなければ、判決に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人に対し、本件家屋を買い受…
実務上の射程
契約の成立時期や細部の態様について、当事者の主張と裁判所の認定が厳密に一致しない場合でも、それが一連の交渉過程の中の事実として主張の枠内にあるならば許容されることを示唆する。答案上は、主要事実の主張の有無を検討する際、主張の「核心部分」において合致しているかという視点から本判決を引用できる。
事件番号: 昭和31(オ)836 / 裁判年月日: 昭和34年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の引渡しや代金の支払という事実がある場合でも、それが直ちに売買契約の成立を裏付ける履行行為であるとは限らず、契約成立の有無は諸般の事情を総合して判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間において、被上告人が空家一棟を引渡し、これに対し上告人が25万円を支払ったという事実が存…
事件番号: 昭和25(オ)251 / 裁判年月日: 昭和28年6月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が人証と書証を総合して事実認定を行うことは、個々の証拠が直接的に特定の事実を証明するに足りない場合であっても、自由心証主義の範囲内として許容される。 第1 事案の概要:上告人は、本件売買契約について証書の作成や代金の受取証が存在しないことを指摘。原審が認定の根拠とした人証は被上告会社の利害関…
事件番号: 昭和39(オ)672 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
買受の意思表示をなした日を示して主張された買戻権行使による登記手続請求に対し、買戻の効力が生じた日を示してなした登記手続請求認容の判決には、民訴法第一八六条に違反する違法はない。
事件番号: 昭和24(オ)214 / 裁判年月日: 昭和26年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において初めて提出された証拠は採用できず、また、原審の証拠取捨や事実認定は裁判所の裁量に属する専権事項である。 第1 事案の概要:上告人が、原審(控訴審)では提出していなかった書証(甲第二、三号証)を上告審において新たに提出し、併せて原審の証拠取捨および事実認定を不当として非難した事案である…