判旨
建物の引渡しや代金の支払という事実がある場合でも、それが直ちに売買契約の成立を裏付ける履行行為であるとは限らず、契約成立の有無は諸般の事情を総合して判断されるべきである。
問題の所在(論点)
建物の引渡しおよび代金の支払という履行行為に類似する事実が存在する場合において、それらの事実から直ちに売買契約の成立を認定しなければならないか。また、書証(甲第1号証)の存在が直ちに契約成立を帰結させるか。
規範
売買契約の成立(民法555条)が認められるためには、当事者間における売買の合意が必要である。物件の引渡しや代金の支払という事実が存在する場合であっても、それが必ずしも確定的な売買契約の履行としてなされたものとは限らず、証拠の評価に基づき、当該事実が契約成立を推認させるに足りるか否かを判断する。
重要事実
上告人と被上告人の間において、被上告人が空家一棟を引渡し、これに対し上告人が25万円を支払ったという事実が存在した。上告人は、これらの事実および特定の書証(甲第1号証)に基づき、本件売買契約は既に成立していると主張して、契約の不成立を認めた原判決の経験則違背を訴え、上告した。
あてはめ
被上告人が空家を引渡し、上告人が25万円を支払った事実は認められるものの、これらの行為が「既に成立した売買契約の履行」としてなされたと断定することはできない。また、契約の成立を示唆する書証(甲第1号証)が存在するとしても、そのことから直ちに売買成立の事実を肯定すべき必然性はなく、その他の事情を含めた事実認定の範囲内に属する。準備書面における記載も、単なる事情の説明に過ぎず、契約成立を直ちに導くものではない。
結論
建物の引渡しや金員の支払があっても、直ちに売買契約の成立を肯認すべきものとはいえず、原審の不成立の判断に違法はない。上告棄却。
事件番号: 昭和36(オ)675 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間に契約の成立を希望する意思の合致があったとしても、直ちに契約が成立したと認めることはできず、確定的に契約の締結に至ったか否かは、当時の実情や動機等の事実関係を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、建物の所有者である被上告人に対し、今後半年から2年の間に当該建物を買い受ける…
実務上の射程
契約締結の有無が争点となる事案において、一部の給付実態(引渡しや内金支払等)があるからといって、直ちに契約の成立が擬制されるわけではないことを示す。答案上は、契約成立の存否を論じる際、形式的な給付の事実のみならず、その法的性質や原因を慎重に検討すべきとする認定手法の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)1210 / 裁判年月日: 昭和36年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が当事者の主張した日時や形式とは異なる態様で契約の成立を認定しても、それが当事者の主張の範囲内における事実の評価にすぎない場合には、弁論主義に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(建築主)が、上告人(施工者)に対し、建物建築請負契約に基づき建物の引渡し等を求めた事案。被上告人は「昭和24年…
事件番号: 昭和34(オ)385 / 裁判年月日: 昭和36年8月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】契約解除に伴う供託金を受領した事実のみをもって、直ちに解除を承認する意思表示があったとみることはできず、証拠関係に基づき個別に判断されるべきである。 第1 事案の概要:原告(被上告人)に対し、被告(上告人)が契約解除を主張し、これに伴う精算金等の供託を行った。原告は本件供託金を受領したが、その後の…
事件番号: 昭和35(オ)406 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
証人らが訴訟当事者の一方の妻あるいは妻の兄の関係にあるとしても、その一事によつて右証人らが証人能力を有しないとか、証言の証拠価値が薄弱であるとかは断定できない。