判旨
当事者間に契約の成立を希望する意思の合致があったとしても、直ちに契約が成立したと認めることはできず、確定的に契約の締結に至ったか否かは、当時の実情や動機等の事実関係を総合して判断すべきである。
問題の所在(論点)
当事者が契約の成立を希望している場合において、特段の明確な合意がないまま、契約(本件では売買予約)が成立したと認定できるか。また、契約成立を推認させる事実の主張に対する裁判所の判断の在り方が問われた。
規範
契約(売買予約を含む)の成立が認められるためには、単に当事者双方が契約の成立を希望する意思を表明しただけでは足りず、具体的条件について合意し、確定的に契約を締結する意思(契約締結の段階への到達)が必要である。裁判所は、当事者が主張する契約成立を推認させる動機や事実関係を検討した上で、それらが単なる希望の表明に留まるか、それとも法的な拘束力を伴う合意に至ったかを、諸般の事情に照らして判断する。
重要事実
上告人は、建物の所有者である被上告人に対し、今後半年から2年の間に当該建物を買い受ける旨の売買予約が成立したと主張した。これに対し被上告人側は事実を否認した。原審は、双方が売買の予約を希望した事実は認めたものの、当時の実情は互いに希望を述べ合った段階に過ぎず、確定的な予約の締結には至っていなかったと判断した。また、上告人は材料の提供等の事実を予約成立の根拠として主張したが、原審はこれらを排斥した。
あてはめ
本件において、上告人と被上告人の間に売買を希望する意思があったことは認められるが、それは将来の展望に関する「希望」を述べ合ったに過ぎない。売買予約という法的な拘束力を生じさせる合意に至るには、単なる動機や材料提供の事実のみでは不十分であり、確定的な締結意思が欠けている。したがって、契約成立を基礎づける主要事実が認められない以上、予約の成立を否定した原審の判断に違法はない。
結論
売買予約の成立は認められない。当事者間に希望の合致があったとしても、確定的な締結の段階に至らなければ契約は成立しない。
実務上の射程
契約の成否が争点となる事案において、単なる「予約の予約」や「交渉段階」と「契約成立」を区別する際の判断枠組みとして活用できる。特に、黙示の合意や事実上の期待に基づく主張を排斥する際、確定的な意思表示の欠如を論証する根拠となる。
事件番号: 昭和31(オ)836 / 裁判年月日: 昭和34年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の引渡しや代金の支払という事実がある場合でも、それが直ちに売買契約の成立を裏付ける履行行為であるとは限らず、契約成立の有無は諸般の事情を総合して判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間において、被上告人が空家一棟を引渡し、これに対し上告人が25万円を支払ったという事実が存…
事件番号: 昭和34(オ)1210 / 裁判年月日: 昭和36年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が当事者の主張した日時や形式とは異なる態様で契約の成立を認定しても、それが当事者の主張の範囲内における事実の評価にすぎない場合には、弁論主義に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(建築主)が、上告人(施工者)に対し、建物建築請負契約に基づき建物の引渡し等を求めた事案。被上告人は「昭和24年…
事件番号: 昭和35(オ)406 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
証人らが訴訟当事者の一方の妻あるいは妻の兄の関係にあるとしても、その一事によつて右証人らが証人能力を有しないとか、証言の証拠価値が薄弱であるとかは断定できない。