判旨
行政庁による運転免許取消処分が裁量権の範囲を逸脱したとは認められず、また憲法25条は国家の責務を宣言する趣旨であって、個人の現実的な生活権を直接保障するものではない。
問題の所在(論点)
1. 公安委員会が運転免許停止ではなく取消処分を選択したことが、行政庁の裁量権の範囲を逸脱・濫用したものといえるか。 2. 免許取消処分が生存権を侵害するものとして、憲法25条に違反するか。
規範
1. 行政処分における裁量の逸脱・濫用の有無は、処分の目的や状況に照らし、その選択が相当といえるかによって判断される。 2. 憲法25条は、国家が国民に対し健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる政治的義務を宣言したものであり、個々の国民に対して直接に具体的権利を付与したものではない(プログラム規定説的解釈)。
重要事実
上告人は、B県公安委員会から受けた運転免許取消処分について、当該処分が生存権を侵害し違法であると主張して争った。上告人は、免許停止処分ではなく取消処分を選択したことが不当であり、かつ職業上の必要性等から生存権を侵害すると訴えたが、原審はその訴えを棄却した。
あてはめ
1. 認定された具体的な事実状況(判決文からは詳細不明)の下では、公安委員会が停止処分ではなく取消処分を選択したことは相当であると認められ、裁量権の範囲を越えたものとは認められない。 2. 上告人は免許取消が個人の生存権を失わせるものであると主張するが、憲法25条は国政上の任務を宣言する規定に留まり、個人の具体的な権利を直接保障するものではない。したがって、個人の事情に基づく生存権侵害の主張は前提において理由がない。
結論
本件運転免許取消処分に裁量権の逸脱はなく、また憲法25条にも違反しないため、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和37(オ)49 / 裁判年月日: 昭和39年6月4日 / 結論: 破棄自判
タクシーの運転手が転回禁止区域における転回という、それ自体では免許停止処分の事由に該当するにすぎない違反行為をした場合であつても、公安委員会が、右違反行為はさきの免許停止処分の期間満了の日から起算して一年以内になされたものであり、しかも右運転手には違反歴がある等判示のような事情を勘案し、同運転手に対してした免許取消処分…
行政法における「裁量権の範囲」の判断、および憲法における25条の法的性格(抽象的権利・プログラム規定)を論じる際の基礎判例として活用できる。特に憲法の答案では、具体的権利性を否定する文脈で朝日訴訟判決等と併せて引用される。
事件番号: 昭和47(行ツ)100 / 裁判年月日: 昭和51年3月23日 / 結論: 棄却
道路交通法施行令(昭和四三年政令第二九八号による改正前のもの)三八条一号ニ、同条二号ハにいう「違反行為」とは、故意によるか過失によるかを問わないものと解すべきである。
事件番号: 昭和53(行ツ)32 / 裁判年月日: 昭和55年11月25日 / 結論: 破棄自判
自動車運転免許の効力停止処分を受けた者は、免許の効力停止期間を経過し、かつ、右処分の日から無違反・無処分で一年を経過したときは、右処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しない。
事件番号: 昭和39(行ツ)44 / 裁判年月日: 昭和40年8月2日 / 結論: 棄却
自動車等運転免許の取消処分の取消を求める訴訟の継続中、当該運転免許証の有効期間が経過した場合でも、その訴は利益を失われない。