タクシーの運転手が転回禁止区域における転回という、それ自体では免許停止処分の事由に該当するにすぎない違反行為をした場合であつても、公安委員会が、右違反行為はさきの免許停止処分の期間満了の日から起算して一年以内になされたものであり、しかも右運転手には違反歴がある等判示のような事情を勘案し、同運転手に対してした免許取消処分は、法令の範囲内における適正な裁量権の行使であつて、違法と解すべきではない。
自動車運転免許取消処分が違法でないとされた事例。
道路交通取締法(昭和22年法律130号)9条,道路交通取締法施行令(昭和28年政令261号)59条,運転免許等の取消、停止又は必要な処分を行う場合における基準等を定める総理府令(昭和28年総理府令75号)8条1項,運転免許等の取消、停止又は必要な処分を行う場合における基準等を定める総理府令(昭和28年総理府令75号)5条2号,運転免許等の取消、停止又は必要な処分を行う場合における基準等を定める総理府令(昭和28年総理府令75号)別表第2
判旨
運転免許取消事由への該当性の判断は、行政庁に一定の裁量権が認められ、過去の著しい交通違反歴や処分の累積を考慮してなされた取消処分は裁量権の範囲内として適法となる。
問題の所在(論点)
運転免許取消事由への該当性の判断における行政庁の裁量の有無、および過去の多数の違反歴や悪質な前歴を考慮してなされた取消処分の裁量権逸脱・濫用の成否(行政事件訴訟法30条)。
規範
運転免許の取消処分は、道路における危険防止や交通の安全・円滑を目的とする行政行為である。その事由に該当するか否かの判断は、純然たる自由裁量ではないが、規定の趣旨に適合するかを各事案の具体的事実関係に照らして判断する限度において、公安委員会に裁量権が認められる。この裁量判断において、過去の違反歴や処分の実状を考慮することは正当な行使の範囲内である。
重要事実
事件番号: 昭和39(行ツ)44 / 裁判年月日: 昭和40年8月2日 / 結論: 棄却
自動車等運転免許の取消処分の取消を求める訴訟の継続中、当該運転免許証の有効期間が経過した場合でも、その訴は利益を失われない。
タクシー運転手である被上告人は、転回禁止区域での違反行為を行い、警察官の注意を無視した。被上告人は過去1年以内に、巡査を車外にぶら下げたまま逃走するという重大な事実に基づく免許停止処分を受けていたほか、昭和30年以降、20回にわたる刑事処分と、計9回の運転免許停止処分を受けていた。公安委員会はこれらの事情を勘案し、本件違反を免許取消事由に該当すると判断して取消処分を行った。
あてはめ
被上告人の本件違反は、単なる転回禁止違反にとどまらず、過去1年以内に重大な危険を生じさせた免許停止処分を受けていた状況下でなされたものである。また、短期間に20回の刑事処分や9回の免許停止処分を繰り返している事実は、道路交通の安全確保という法の趣旨に照らし、運転者としての適格性を著しく欠くことを示す。タクシー運転手として同程度の違反歴を持つ者が稀ではないという事情は、個別事案における適格性の判断を左右するものではなく、比例原則に違反して著しく公正を欠くとはいえない。
結論
本件取消処分は、公安委員会の裁量権の正当な行使の範囲内にとどまるものであり、裁量権の範囲を逸脱した違法はない。
実務上の射程
行政庁に「専門技術的な判断」や「公益上の考慮」が求められる場面での裁量を認めるリーディングケースの一つ。答案上では、法文に不確定概念が含まれる場合の判断権の所在を論証する際に引用し、過去の違反歴などの考慮要素が目的合理性を有する限り、裁量は広く認められる方向で活用する。
事件番号: 昭和47(行ツ)100 / 裁判年月日: 昭和51年3月23日 / 結論: 棄却
道路交通法施行令(昭和四三年政令第二九八号による改正前のもの)三八条一号ニ、同条二号ハにいう「違反行為」とは、故意によるか過失によるかを問わないものと解すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)1125 / 裁判年月日: 昭和29年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁による運転免許取消処分が裁量権の範囲を逸脱したとは認められず、また憲法25条は国家の責務を宣言する趣旨であって、個人の現実的な生活権を直接保障するものではない。 第1 事案の概要:上告人は、B県公安委員会から受けた運転免許取消処分について、当該処分が生存権を侵害し違法であると主張して争った。…
事件番号: 昭和29(オ)973 / 裁判年月日: 昭和32年5月10日 / 結論: その他
公務員の懲戒権者が懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定することは、その処分が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。