わが現行法制の下にあつては、たゞ純然たる司法裁判所だけが設置せられているのであつて、いわゆる違憲審査権なるものも、下級審たると上級審たるとを問わず、司法裁判所が当事者に存する具体的な法律上の争訟について審判をなすため必要な範囲において行使せられるに過ぎない。すなわち憲法八一条は単に最高裁判所が司法裁判所として右違憲の審査をなすにつき最終審たるべきことを要請したに止まり、所論のように司法裁判所でない。違憲審査を固有の権限とする始審にして終審である憲法裁判所たる性格をも併有すべきことを規定したものと解すべきではない。この見解の維持せらるべき所以はさきに当裁判所が昭和二七年(マ)第二三号事件の判決において示したとおりであり、これと反対の見地に出でた原告の所論には賛同するを得ない。
具体的事件を離れて最高裁判所は抽象的に始審として法律命令等の合憲性を判断できるか
判旨
日本国憲法下の裁判所は純然たる司法裁判所であり、具体的な法律上の争訟を離れて抽象的に法令等の合憲性を審査する権限を有しない。したがって、最高裁判所を始審かつ終審の憲法裁判所とみなして提起された訴えは、現行法制上認められず不適法である。
問題の所在(論点)
憲法81条の解釈に関し、裁判所は具体的な争訟を前提とせずに、抽象的に法令等の違憲審査を行う権限(抽象的違憲審査制)を有するか。
規範
憲法81条は、最高裁判所が司法裁判所として違憲審査を行う際の最終審であることを定めたものであり、司法裁判所としての性格を離れて、独立に違憲審査を固有の権限とする憲法裁判所を設置したものではない。司法裁判所が行使する違憲審査権は、当事者間に存する具体的な法律上の争訟を審判するために必要な範囲においてのみ認められる。
重要事実
原告が、最高裁判所は司法裁判所であるだけでなく、始審かつ終審として一切の法律、命令、規則又は処分の合憲性を審判すべき唯一の憲法裁判所としての性格をも有すると主張して、本件訴えを提起した事案。
事件番号: 昭和27(マ)148 / 裁判年月日: 昭和28年4月15日 / 結論: 却下
憲法第八一条は、最高裁判所が違憲審査を固有の権限とする始審にして終審である憲法裁判所たる性格をも併有すべきことを規定したものではない。
あてはめ
原告の主張は、最高裁判所を「司法裁判所ではない憲法裁判所」として捉え、その所管事項として本件を提起するものである。しかし、現行法制下においては、下級審・上級審を問わず、裁判所は具体的な法律上の争訟を前提とする「司法裁判所」としてのみ設置されている。具体的な法律上の争訟を離れた抽象的な審査権の行使は、付随的違憲審査制を採る現行法制の予定しないところである。
結論
本件訴えは、現行法制上認められていない抽象的違憲審査を求めるものであり、不適法である。よって、本件訴えを却下する。
実務上の射程
付随的違憲審査制(司法国家型)の根拠となる最重要判例である。司法権の限界に関する答案において、「具体的な法律上の争訟」が存在しない場合(客観訴訟が法定されていない場合等)に、裁判所が判断を下せない理由を基礎づける際に引用する。
事件番号: 昭和27(マ)120 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】憲法81条は、最高裁判所が違憲審査を固有の権限とする憲法裁判所であることを規定したものではなく、司法裁判所として具体的な法律上の争訟を裁判するに際して行使されるべきものである。最高裁判所が一審裁判所として管轄権を有する旨の法律の規定がない限り、最高裁判所に直接提起された訴えは不適法である。 第1 …
事件番号: 昭和28(オ)856 / 裁判年月日: 昭和29年2月26日 / 結論: 棄却
地方公共団体の議会の解散請求署名簿の署名の効力に関する訴訟において、議会は当事者能力を有しない。
事件番号: 昭和30(オ)665 / 裁判年月日: 昭和31年2月17日 / 結論: 棄却
特別区長選任無効確認を求める住民の訴は、その具体的権利義務に関係がないから不適法である。