特別区長選任無効確認を求める住民の訴は、その具体的権利義務に関係がないから不適法である。
特別区長選任無効確認を求める住民の訴の適否
行政事件訴訟特例法1条,地方自治法281条の2
判旨
わが国の裁判所は特定の者の具体的な権利義務に関する法律上の争訟についてのみ裁判権を有し、抽象的な法令の合憲性を審査する権限を持たない。
問題の所在(論点)
憲法81条は、裁判所に対して、具体的な法律上の争訟を前提としない抽象的な法令の違憲審査を認めているか。また、区長選任の無効確認等を求める訴えが、個人の「具体的な権利義務」に関する訴えといえるか。
規範
日本国憲法下の司法権(憲法76条1項)は、特定の者の具体的な権利義務そのものの法律上の争訟についてのみ行使される。したがって、憲法81条に基づく違憲審査権も、かかる司法権の範囲内においてのみ行使しうるものであり、抽象的な法令の無効確認や、自己の具体的権利義務に直接関係のない事項の是非を問う訴えについては、司法裁判所の裁判権は及ばない。
重要事実
上告人は、地方自治法の改正により東京都の特別区区長が公選制から議会による選任制に改められたことに対し、世田谷区長選任の無効、同人が区長でないことの確認、および世田谷区議会に区長選任権がないことの確認を求めて出訴した。上告人は、自身が区民として区長の直接選挙権を有しており、改正法はその権利を剥奪するものであって憲法15条・93条2項に違反すると主張した。
事件番号: 昭和38(オ)80 / 裁判年月日: 昭和39年4月21日 / 結論: 棄却
抽象的に法令の違憲を主張する訴は不適法である。
あてはめ
上告人が求めているのは、法律規定の無効、区議会の選任権限の不存在、およびBの区長選任・就任の無効確認である。Bが区長に選任されたこと自体は、上告人個人の具体的権利義務に直接影響を及ぼすものではない。上告人は選挙権の回復を目的とする旨主張するが、本件各請求が認められたとしても、直ちに上告人が選挙権を行使できる状態になるわけではない。したがって、本件訴えは個人の具体的権利義務に関わらない抽象的な論争にすぎないといえる。
結論
本件訴えは司法裁判所が裁判権を有する法律上の争訟にあたらず、不適法である。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
司法制度の基本原則(付随的違憲審査制)を確立した重要判例である。行政事件訴訟法等における「法律上の争訟性」の欠如を論じる際のリーディングケースとして活用し、客観的訴訟(民衆訴訟)が法定されている場合を除き、主観的な権利利益の侵害を伴わない訴えは却下されるべきとする論拠となる。
事件番号: 昭和27(マ)23 / 裁判年月日: 昭和27年10月8日 / 結論: 却下
最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではない。
事件番号: 昭和27(マ)127 / 裁判年月日: 昭和28年4月1日 / 結論: 却下
わが現行法制の下にあつては、たゞ純然たる司法裁判所だけが設置せられているのであつて、いわゆる違憲審査権なるものも、下級審たると上級審たるとを問わず、司法裁判所が当事者に存する具体的な法律上の争訟について審判をなすため必要な範囲において行使せられるに過ぎない。すなわち憲法八一条は単に最高裁判所が司法裁判所として右違憲の審…