抽象的に法令の違憲を主張する訴は不適法である。
抽象的に法令の違憲を主張する訴の適否。
憲法81条
判旨
裁判所が有する違憲審査権は具体的な法律上の争訟を解決するために行使されるものであり、具体的な権利侵害を伴わない抽象的な法律の違憲主張は裁判権の範囲外である。また、個人の具体的権利義務に関係のない民衆訴訟は、法律に特別の規定がある場合に限り許容される。
問題の所在(論点)
1. 裁判所は、具体的な訴訟事件を前提とせずに、法律の合憲性を抽象的に判断できるか。2. 個人の具体的な権利利益の侵害を伴わない「区民一般の権利」の主張に基づく訴訟は、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」として適法か。
規範
1. 憲法81条の規定は、裁判所に対し、具体的な法律上の争訟を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を審査する権限を付与したものではない。2. 個人の具体的権利義務に関係のない訴訟(民衆訴訟)は、本来「法律上の争訟」に該当せず、法律に特別の規定がある場合に限り、例外的に裁判所の権限に属する。
重要事実
上告人らは、地方自治法281条の2が特別区長の選任方法を制限している点について、憲法93条2項が定める地方公共団体の長の選挙権を侵害し違憲であると主張した。上告人らは、特定の区長の選任に関連して出訴したが、その実体は区民一般に与えられた権利の侵害を主張するものであった。これに対し、原審が抽象的な違憲審査を求める訴えとして不適法却下したため、上告に至った。
事件番号: 昭和30(オ)665 / 裁判年月日: 昭和31年2月17日 / 結論: 棄却
特別区長選任無効確認を求める住民の訴は、その具体的権利義務に関係がないから不適法である。
あてはめ
1. 裁判所の権限は具体的争訟の解決にある。上告人らの主張する「選挙権の侵害」は区民一般に共通する法的状況に過ぎず、上告人ら個人の具体的な権利利益が他と区別して侵害されたものとは認められない。2. このような訴えは、実質的に法律の違憲性を一般的に主張するものであり、具体的な争訟を離れた抽象的な審査を求めるものに帰する。3. 民衆訴訟については、法律に特別の規定が必要であるが、特別区長の選任行為に関してこれを許容する法的根拠は存在しない。
結論
本件訴訟は、抽象的に法律の違憲を主張する訴え、あるいは法律の規定のない民衆訴訟に該当し、不適法である。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
司法審査の対象となる「法律上の争訟」の要件(具体的争訟性の必要)を論じる際のリーディングケースである。答案上では、具体的権利義務の存否に関する紛争ではない訴訟や、法律に根拠のない民衆訴訟を排除する際の根拠として引用する。
事件番号: 昭和27(マ)23 / 裁判年月日: 昭和27年10月8日 / 結論: 却下
最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではない。