昭和二三年政令第二〇一号によつて憲法上保障されている団体交渉権、団体行動権等の権利が阻害されたと主張し、右政令の取消を求める訴は、具体的権利の紛争に関する訴とはいえない。
昭和二三年政令第二〇一号によつて憲法上保障された権利を侵害されたと主張し、右政令の取消を求める訴と具体的権利関係に関する紛争の有無
憲法81条
判旨
裁判所が有する司法権は、具体的な争訟事件が提起されることを必要とし、具体的権利関係の紛争を伴わない抽象的な法令の合憲性判断を行う権限は有しない。したがって、一般的抽象的な法規である政令の制定行為自体の取消しを求める訴えは、不適法として却下される。
問題の所在(論点)
具体的権利義務に関する紛争を伴わず、一般的・抽象的な法規である政令の制定行為そのものの取消しを求める訴えが、「具体的な争訟事件」として司法審査の対象となるか。
規範
わが国の裁判所が憲法上与えられている司法権を行使するためには、前提として具体的な争訟事件が提起されることを要する。司法権は、当事者間の具体的な権利義務に関する紛争を解決するために発動されるものであり、具体的な争訟事件が提起されない限り、抽象的に法律や命令等の合憲性を判断する権限(抽象的違憲審査権)は認められない。
重要事実
上告人らは、公務員の労働三権を制限する内容を含む昭和23年政令第201号が憲法に違反し、基本的人権を侵害するものであると主張した。その上で、当該政令の制定行為を行政庁の違法な処分と捉え、行政事件訴訟特例法に基づき、その取消しを求めて提訴した。これに対し、原審は本件訴えを不適法として却下したため、上告人らが上告した。
あてはめ
本件で取り消しの対象とされている政令第201号は、特定の個人を対象とするものではなく、当時のすべての公務員等の労働関係を規律する一般的抽象的な法規である。上告人らは政令により権利が侵害されたと主張するが、その請求の内容は具体的権利関係の紛争の解決ではなく、政令を制定した行為自体の取消しを求めるものである。これは、具体的な争訟事件を前提とせずに抽象的に命令の合憲性を判断することを求めるものにほかならない。
結論
本件訴訟は具体的な争訟事件を欠くものであり、司法権の範囲外であって不適法である。したがって、本件訴えを却下した原判決は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
司法権の限界および具体的争訟の要件(裁判所法3条1項)に関するリーディングケースである。答案上では、処分性(行訴法3条2項)の欠如を論じる文脈や、客観訴訟が法律の定めに限定される根拠として、「司法権=具体的争訟の解決」という定義を引用する際に用いる。また、日本がドイツ型の憲法裁判所制度(抽象的審査制)を採用していないことの根拠としても重要である。
事件番号: 昭和27(マ)23 / 裁判年月日: 昭和27年10月8日 / 結論: 却下
最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではない。