最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではない。
具体的事件を離れて最高裁判所は抽象的に法律命令等の合憲性を判断できるか
憲法81条
判旨
我が国の裁判所が行使し得るのは具体的な争訟事件を前提とする司法権のみであり、具体的紛争を離れて抽象的に法律等の合憲性を判断する権限は有しない。
問題の所在(論点)
裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に該当しない、具体的な権利義務に関する紛争を伴わない抽象的な違憲審査の訴えが適法か。また、憲法81条は最高裁判所に抽象的違憲審査権を付与しているか。
規範
憲法81条が定める違憲審査権は、憲法76条1項にいう司法権の範囲内において行使されるものである。したがって、裁判所が合憲性の判断を下すためには、特定の者の具体的な法律関係につき紛争が存在する「具体的な争訟事件」が提起されることを要し、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令、規則又は処分の合憲性を判断する権限は、憲法上及び法令上認められない。
重要事実
原告(日本社会党書記長)は、警察予備隊の設置及び維持に関する一切の行為が、憲法9条に違反し無効であることの確認を求めて最高裁判所に直接提訴した。原告は、最高裁判所は通常の司法裁判所としての性格に加え、具体的争訟を離れて抽象的に法律等の違憲審査をなし得る特殊な権限を兼有しており、第一審にして終審として裁判し得る旨主張した。
あてはめ
原告の請求は、警察予備隊の設置等の無効宣言を求めるものであり、原告自身の具体的な法律関係についての紛争に関するものではない。このような抽象的な疑義や論争を解決することは、将来の予測に基づく抽象的判断を下すことに他ならず、司法権の発動要件を満たさない。また、最高裁判所に抽象的審査権を認めれば、裁判所が全国家機関の上に位することになり、三権分立及び抑制と均衡の民主政治の根本原理に反するおそれがある。したがって、本件は司法権の行使し得ない不適法な訴えといえる。
結論
本件訴訟は不適法であるため、却下を免れない。
実務上の射程
司法審査の対象が「法律上の争訟」に限定されることを示したリーディングケースである。答案上では、具体的な権利義務の主張を伴わない憲法判断の申立て(客観訴訟的側面)に対し、付随的違憲審査制の根拠として引用する。
事件番号: 昭和27(オ)533 / 裁判年月日: 昭和28年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁による「承認」が、国民の権利義務を直接的に形成し、またはその範囲を確定する効果を有しない場合には、行政事件訴訟法上の取消訴訟の対象となる行政処分には該当しない。 第1 事案の概要:上告人は、行政庁が行った特定の「承認」について、その違法を理由に取消訴訟を提起した。しかし、当該承認行為が国民の…
事件番号: 昭和30(オ)665 / 裁判年月日: 昭和31年2月17日 / 結論: 棄却
特別区長選任無効確認を求める住民の訴は、その具体的権利義務に関係がないから不適法である。