判旨
従業員としての在職期間中に限り建物を使用させる旨の黙示の合意がある場合、退職により貸借関係は当然に終了する。また、所有権に基づく妨害排除請求において、所有権が認められる限り移転登記の有無は請求の当否に影響しない。
問題の所在(論点)
1. 在職期間を存続期間とする建物貸借の合意がある場合、退職により貸借関係は終了するか。2. 所有権に基づく妨害排除請求(建物明渡請求)において、所有権移転登記の具備は必要か。
規範
1. 建物貸借において、在職期間中に限り存続し退職時に直ちに明け渡す旨の黙示の合意がある場合、従業員の地位喪失をもって貸借関係は終了する。2. 物権的請求権(妨害排除請求)の行使において、原告が所有権を有していることが認められるならば、その対抗要件(登記)の具備は請求の認容を妨げる要件ではない。
重要事実
上告人らは、第一会社との間で同社の建物を借り受けて居住していた。この貸借には、在職期間中に限り存続し退職時には直ちに明け渡すという黙示の合意が存在していた。その後、上告人らは第一会社を退職したが、建物の占有を継続した。一方、被上告会社は企業整備計画に基づき第一会社から本件建物の現物出資を受けて設立された第二会社であり、本件建物の所有権を取得した。被上告会社は、上告人らに対し、所有権に基づき不法占有の排除として建物明渡しを求めて提訴した。
あてはめ
1. 上告人らと第一会社との間には、本件建物の貸借を従業員としての在職期間に限定し、退職時には直ちに明け渡す旨の黙示の合意が認められる。上告人らが既に退職し従業員の地位を失った以上、当該貸借関係は終了しており、建物を占有する権原は失われている。2. 被上告会社は現物出資により本件建物の所有権を取得した所有権者である。所有権に基づく妨害排除請求は、所有権の存在自体を根拠とするものであるため、実体上の所有権が認められる以上、登記の有無によってその請求の適否が左右されるものではない。
結論
1. 従業員の地位を喪失したことで貸借関係は終了し、明渡義務が生じる。2. 所有権が認められる限り、登記がなくても不法占有者に対する明渡請求は認められる。
実務上の射程
社宅等の利用関係において、雇用関係と連動する合意(解除条件または終期)の有効性を認める。また、物権的請求権の相手方が不法占有者である場合、民法177条の「第三者」に該当しないため、登記なくして所有権を対抗できるという法理を確認するものである。
事件番号: 昭和31(オ)708 / 裁判年月日: 昭和32年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解約申入れは要式行為ではなく、契約存続を欲しない意思が客観的に表示されていれば足り、更新拒絶の意思表示に解約申入れの意思が包含されていると解することも妨げられない。また、正当事由の判断において賃借人の困窮等の事情を考慮した上でなお明渡しを認めることが可能であり、正当事由が認められる場合…