原判決(引用する第一審判決)の認定した事実関係のもとでは、本件建物の利用関係は賃貸借ではなく、鉱員たる資格の存在をその使用関係存続の前提とする社宅に関する特殊な契約関係であつて、借家法の適用はない。
社宅の使用関係の性質
借家法1条の2,民法601条
判旨
社宅の利用関係が、従業員たる資格の存在をその使用関係存続の前提とする特殊な契約関係である場合には、借家法の適用はなく、退職により当然に終了する。
問題の所在(論点)
従業員に提供される社宅の利用関係が借家法の適用を受ける賃貸借にあたるか。また、退職に伴う社宅明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)となるか。
規範
社宅の使用関係が、単なる建物の賃貸借ではなく、従業員(鉱員等)としての資格の存在をその利用・存続の前提条件とする「特殊な契約関係」である場合には、借家法の適用は否定される。
重要事実
上告人らは被上告会社の従業員(鉱員)であったが、退職に至った。会社は、従業員たる資格を喪失したことを理由に、上告人らが居住していた本件建物の明渡しを請求した。上告人側は、労働契約の合意解約の無効(公序良俗違反)や、借家法の適用がある賃貸借関係であること、請求が権利の濫用にあたること等を主張して争った。
あてはめ
本件における建物の利用関係は、鉱員としての資格の存在を前提とする社宅に関する特殊な契約関係と認められる。この場合、通常の賃貸借とは性質を異にし、雇用関係の終了とともに使用権限も消滅する構成をとる。また、退職に至る経緯や事実関係に照らせば、会社による明渡請求が権利の濫用に該当すると評価すべき事情も認められない。
結論
本件社宅利用には借家法の適用がなく、従業員資格を喪失した上告人らに対する明渡請求は正当であり、権利の濫用にもあたらない。
実務上の射程
社宅の性格が「福利厚生の一環として雇用契約に付随し、従業員資格と密接に結びついたもの」といえる場合には、借家法(現・借地借家法)の適用を排斥できる。ただし、実務上は、賃料(使用料)の多寡、契約の目的、退職後の相当期間の経過等の個別事情により賃貸借と判断される余地があるため、本判決は「雇用と直結した特殊な契約」と認定されるケースにおける射程を示すものである。
事件番号: 昭和27(オ)989 / 裁判年月日: 昭和29年11月16日 / 結論: 棄却
会社とその従業員との間における有料社宅の使用関係が賃貸借であるかその他の契約関係であるかは、各場合における契約の趣旨いかんによる。