社宅の賃貸借の解約申入につき後記事実(判決理由参照)あるときは、借家法第一条ノ二にいわゆる正当事由があると認むべきである。
社宅の賃貸借の解約申入に正当事由ある一事例
借家法1条の2
判旨
従業員福利施設として貸与された社宅について、賃借人が退職し、かつ他に居住地を有する一方で、賃貸人が多数の住宅困窮従業員を抱え社宅の返還を強く求められている場合、解約申し入れの正当事由が認められる。
問題の所在(論点)
賃借人が退職し、社宅としての本来の目的を喪失した場合において、賃貸人側の建物使用の必要性が賃借人側の事情を上回り、解約申し入れに「正当事由」が認められるか。
規範
借家法1条の2(現行借地借家法28条)にいう「正当の事由」の有無は、賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の利用状況や賃貸借に至る経緯等を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
会社員A1は、勤務先である被上告会社から、従業員福利施設である社宅を賃借した。その後、A1は退職し、自らは他県に住居を構え妻子を居住させていたが、本件社宅には妻の母及び姉を住まわせ、自らは居住していなかった。一方、会社側は約60世帯の住宅困窮従業員を擁しており、労働組合からも当該社宅の使用を強く求められていた。会社はA1に対し、賃貸借の解約を申し入れた。
あてはめ
まず、本件家屋は従業員福利施設たる社宅であり、原則として従業員以外の者には使用させない運用がなされていたところ、A1は既に退職しており、社宅を利用する適格を欠いている。また、A1は他県に自己の住居を確保しており、本件家屋に自ら居住する必要性は低い。これに対し、会社側は多数の住宅困窮従業員を抱え、労働組合からも返還要求を受けているなど、従業員福祉の観点から建物の明け渡しを受ける切実かつ高度な必要性が認められる。したがって、双方の諸事情を比較衡量すれば、賃貸人側の必要性が著しく優越しているといえる。
結論
被上告人による解約申し入れには正当事由が認められ、賃貸借契約は終了する。
実務上の射程
社宅の明け渡しにおける正当事由の判断基準を示す。賃借人の退職という属性の変化と、代わりの居住地の有無、および賃貸人側の福利厚生上の必要性の程度を対比させる枠組みは、現行借地借家法28条下でも実務上有効である。
事件番号: 昭和43(オ)1327 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 棄却
原判決(引用する第一審判決)の認定した事実関係のもとでは、本件建物の利用関係は賃貸借ではなく、鉱員たる資格の存在をその使用関係存続の前提とする社宅に関する特殊な契約関係であつて、借家法の適用はない。