判旨
債務者が特定の債務の弁済として金員を送付し、債権者がこれを受領した場合であっても、他に弁済期にある別債務が存在し、かつ契約上の義務不履行等の事情があるときは、当該受領をもって直ちに特定債務の弁済があったと断定することはできず、損益相殺の対象にもならない。
問題の所在(論点)
債務者が特定の目的を明示して送金し、債権者がこれを受領した場合に、客観的に他の債権が存在することを理由として、当該特定債務の弁済としての効力を否定し、損益相殺による控除を拒むことができるか。
規範
特定の債務の支払として送付された金員を債権者が受領した場合であっても、債務者が他の債務(和解契約に基づく支払等)を履行していない等の事情があり、債権者が当該債務者に対して他にも正当な金銭債権を有しているときは、その受領が当然に当該特定債務の弁済としてなされたものと断定することはできない。
重要事実
被上告人とDとの間には、従前の取引に関する和解契約があり、Dが第一回支払分10万円を支払うことが本件りんごの売買義務発生の条件となっていた。しかし、Dは当該10万円を支払わず、さらに別件のりんご代金の半額も支払わないまま、本件りんごの代金名目で44万3625円を送付し、被上告人がこれを受領した。上告人は、この受領額を賠償額から控除すべき(損益相殺)と主張した。
あてはめ
Dは和解契約に基づく10万円の支払義務を怠っており、被上告人には本件りんごの引渡義務自体が発生していなかった。また、Dは別件の代金債務も履行していない。これらの事実によれば、被上告人はDに対し、本件りんご代金以外にも受領すべき正当な金銭債権を有していたことが明らかである。したがって、送金された金員を受領したからといって、これを直ちに引渡義務のない本件りんごの代金として受領したものと断定することはできず、損益相殺の基礎となる利益の帰属は認められない。
結論
被上告人が受領した金員を損益相殺として賠償額から控除する必要はない。
実務上の射程
本判決は、弁済の充当や損益相殺の可否が争われる場面で、形式的な受領の事実だけでなく、基礎となる契約上の義務履行状況や別債務の存否を考慮すべきことを示唆する。答案上は、不法行為や債務不履行の損害賠償額算定において、受領済みの金員が当該損害を補填する性質のものといえるかを検討する際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)1067 / 裁判年月日: 昭和34年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において買主が出捐した金員の現実の授受に売主が直接関与していない場合であっても、損害賠償責任の発生原因が認められる限り、売主はその賠償責任を免れない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、本件売買に関し合計37万5000円を出捐した。上告人(売主)は、そのうちの22万円について現実の授受…