Yが自己を介して米国債を購入すれば高額の配当金を得ることができると架空の事実を申し向けてXから金員を騙取した場合において,Yが,詐欺の発覚を防ぎ,更なる詐欺を実行するための手段として,あたかも米国債を購入して配当金を得たかのように装い,配当金名下にXに金員を交付したという事情の下では,XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求において同金員の額を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象としてXの損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。 (反対意見がある。)
Yが投資資金名下にXから金員を騙取した場合に,Xからの不法行為に基づく損害賠償請求においてYが詐欺の手段として配当金名下にXに交付した金員の額を損益相殺等の対象としてXの損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例
民法708条,民法709条,刑法246条1項
判旨
反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が、当該行為に関連して受けた利益(不法原因給付)は、損益相殺ないし損益相殺的な調整として損害額から控除することはできない。
問題の所在(論点)
不法行為の加害者が、詐欺行為を継続・隠蔽する目的で行った「仮装配当」による利益を、被害者の損害賠償請求額から損益相殺(的調整)として控除できるか。当該給付の不法原因給付性(民法708条)との関係が問題となる。
規範
社会の倫理、道徳に反する醜悪な行為(反倫理的行為)に該当する不法行為の被害者が、これによって損害を被るとともに、当該行為に係る給付を受けて利益を得た場合、その利益については、加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく、被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺(ないし損益相殺的な調整)の対象として控除することも許されない。
重要事実
加害者は米国債の架空投資を繰り返し持ちかけ、被害者らから購入資金(本件各騙取金)を騙取した(本件詐欺)。加害者は投資が成功していると装うため、被害者らに対し「配当金」の名目で金員(本件各仮装配当金)を支払っていた。被害者らは加害者に対し、本件詐欺に基づく損害賠償を請求したが、損害額の算定にあたり受領済みの「仮装配当金」を控除すべきかが争点となった。
あてはめ
本件詐欺は、架空の投資話で金員を騙取するものであり「反倫理的行為」に該当する。また、本件各仮装配当金の交付は、被害者に米国債を購入していると誤信させ、詐欺を発覚させないための手段として行われた。したがって、被害者が得たこの利益は、不法原因給付(民法708条)によって生じたものといえる。これを損益相殺の対象として控除を認めることは、実質的に加害者からの返還請求を認めるのと同様の結果を招き、クリーンハンズの原則に反するため許されない。
結論
本件各仮装配当金は損益相殺的な調整の対象とならず、被害者の損害額(騙取金全額)から控除することはできない。
実務上の射程
公序良俗に反するような悪質な詐欺事案において、被害者が受け取った一部の「配当」を既得利益として保護し、加害者の賠償責任を軽減させないという判断。投資詐欺事案の損害算定において、損益相殺の抗弁を封じるための強力な論拠となる。
事件番号: 昭和27(オ)572 / 裁判年月日: 昭和28年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、詐欺等の加害行為自体が否定される場合には、給付の不法原因性(公序良俗違反等)を検討するまでもなく請求は棄却されるべきである。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)が正規の許可なく事務室に電話機を設置し、正当な架設と装って事務室を貸し出したた…