判旨
不法行為に基づく損害賠償請求において、詐欺等の加害行為自体が否定される場合には、給付の不法原因性(公序良俗違反等)を検討するまでもなく請求は棄却されるべきである。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟において、加害行為(詐欺)の成立が否定された場合、裁判所はさらに給付内容の公序良俗違反や不法原因給付の成否について判断すべきか。
規範
不法行為(民法709条)の成否は、加害者の違法な加害行為(詐欺等)の有無、損害の発生、および両者の因果関係により判断される。請求の根拠が不法行為である場合、加害行為の存在が否定されれば、給付が不当利得における不法原因給付(民法708条)に該当するか否かを判断する必要はない。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)が正規の許可なく事務室に電話機を設置し、正当な架設と装って事務室を貸し出したため、利便性を誤信して賃貸借契約を締結し権利金19万円を騙取されたと主張した。これに対し、原審は、契約内容には階下の電話利用が含まれるに留まり、二階貸室への架設義務はなく、被上告人に詐欺の事実は認められないと認定した。
あてはめ
上告人の反訴請求は、不当利得返還請求ではなく、詐欺を理由とする不法行為の損害賠償請求である。原審において、被上告人が上告人を欺いて契約を締結させ、権利金を交付させた事実は認められないと判断された以上、不法行為の要件である加害行為が存在しない。したがって、前提となる不法行為が成立しない以上、その余の不法原因給付に関する判断は不要な「蛇足」である。
結論
詐欺による不法行為が成立しない以上、上告人の損害賠償請求は棄却される。原審が不法原因給付に言及した点は結論に影響しない。
実務上の射程
訴訟物の特定(損害賠償か不当利得か)の重要性を示す。答案では、709条の要件(違法行為)が欠ける場合に、708条等の他条文の議論に深入りせず、請求棄却を導く構成の根拠として用いる。
事件番号: 昭和51(オ)402 / 裁判年月日: 昭和52年5月27日 / 結論: 破棄差戻
「被告は、賃借家屋を改造するにつき賃貸人たる原告に立会の機会を与えず、原告の予期しなかつた改造を行い、また、原告に対して賃借家屋の補強工事をすると約束したのにその完全な履行をしなかつた。被告のこのような改造の方法、程度及びその後の補強のしかたは、賃貸借における当事者間の信頼関係を破壊するものであるから、賃貸借契約を解除…