訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる。
訴えの提起が違法な行為となる場合
民法709条,民訴法2編1章訴
判旨
民事訴訟の提起が不法行為を構成するのは、主張した権利等が事実的・法律的根拠を欠き、かつ提訴者がそれを知り、又は通常人なら容易に知り得たといえるなど、裁判制度の趣旨に照らし著しく相当性を欠く場合に限られる。
問題の所在(論点)
民事訴訟を提起し敗訴した場合において、当該訴えの提起自体が相手方に対する不法行為(民法709条)として違法となるための要件。
規範
法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは原則として正当な行為であり、敗訴確定のみで直ちに違法とはならない。訴えの提起が不法行為(民法709条)となるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。提訴者に高度の調査・検討義務を課すことは、裁判制度の自由な利用を阻害するため妥当ではないからである。
重要事実
上告人は土地の真実の買主であったが、便宜上、仲介者Eの名義でF社への売買契約が締結された。その際、被上告人(土地家屋調査士)がF社の依頼で測量したが、Eの不適切な指示により過小な面積が算出された。上告人は、自身を依頼主と信じて被上告人に損害賠償を求める前訴を提起したが、契約当事者ではないことを理由に敗訴。これに対し被上告人が、前訴の提起は不法行為であるとして弁護士費用相当額等の賠償を求めた。
事件番号: 平成7(オ)160 / 裁判年月日: 平成11年4月22日 / 結論: その他
甲と乙とが乗車中の自動二輪車の交通事故により死亡した甲の相続人が,捜査機関が甲を運転者と認定したことを知りながら,乙を運転者と主張して乙に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合であっても,右主張に沿う事故直前の目撃者らの供述があり,現場の状況,自動二輪車の損傷状況などの客観的証拠からは運転者を特定することが必ずしも容易で…
あてはめ
上告人は、実質的には土地の所有者であり、Eは上告人の承諾下で契約名義人となっていたに過ぎない。また、売買価格の精算に直結する測量において不当な数値が出され、F社がこれを盾に精算を拒んでいた事情がある。このような複雑な権利外観の下では、上告人が被上告人に対し直接の賠償請求権を有しないことを知っていたとはいえず、また通常人であっても容易に知り得たとはいえない。事前の事実確認が不十分であったとしても、直ちに裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くとは認められない。
結論
本件訴えの提起は不法行為にはあたらない。したがって、上告人は被上告人が前訴で支出した弁護士費用を賠償する義務を負わない。
実務上の射程
不当訴訟による不法行為の成立範囲を極めて限定的に解した重要判例である。答案上は、訴訟における弁護士費用の賠償請求の可否が問われた際、原則(否定)と例外(本判例の規範)をセットで示す必要がある。特に「著しく相当性を欠く」という厳格な要件を明示し、提訴者の認識や調査の困難性を具体的事実に基づきあてはめるべきである。
事件番号: 平成1(オ)1546 / 裁判年月日: 平成2年1月22日 / 結論: 破棄差戻
仮処分命令の本案において、仮処分申請における原告の主張が採用されず原告敗訴の判決が確定した場合においても、請求の当否が遺言の趣旨の解釈にかかるものであり、原告が右遺言の趣旨を遺産分割方法の指定と解したことが首肯し得るものであった等判示の事実関係の下においては、直ちに仮処分申請人に過失があったものとすることはできない。
事件番号: 平成31(受)606 / 裁判年月日: 令和2年4月7日 / 結論: その他
強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されない。 (補足意見がある。)