「被告は、賃借家屋を改造するにつき賃貸人たる原告に立会の機会を与えず、原告の予期しなかつた改造を行い、また、原告に対して賃借家屋の補強工事をすると約束したのにその完全な履行をしなかつた。被告のこのような改造の方法、程度及びその後の補強のしかたは、賃貸借における当事者間の信頼関係を破壊するものであるから、賃貸借契約を解除する。」との原告主張は、被告の賃借家屋の用方義務違反を理由とする契約解除の主張であつて、このような場合に、裁判所が借家法一条ノ二の正当事由に基づく解約申入及び正当事由の存在を認定して原告の家屋明渡請求を認容したのは、当事者の主張しない事実を認定した違法がある。
借家法一条ノ二の正当事由に基づく解約申入の認定について狭義の弁論主義違反の違法があるとされた事例
民訴法186条
判旨
原告が賃借人の用法義務違反を理由とする解除を主張している場合に、裁判所が借家法1条ノ2の正当事由に基づく解約申入れの効果を認めることは、特段の事情のない限り弁論主義に違背する。
問題の所在(論点)
賃借人の用法義務違反を理由とする契約解除(民法541条等)の主張がなされている場合に、裁判所が当事者の主張しない借家法1条ノ2に基づく解約申入れ(正当事由)の事実を認定し、契約終了を認めることは弁論主義(第1テーゼ)に反するか。
規範
法律効果の発生を理由づける主要事実については、当事者の主張がなければ裁判所はこれを認定できない。主要事実の主張内容と認定内容が社会観念上同一と認められれば足りるが、全く異なる法的構成(解除と解約申入れ)を基礎づける事実の認定は、不利益を受ける当事者の防御権行使の機会を不当に奪わない等の特段の事情がない限り、弁論主義に違背し許されない。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、賃借人(上告人)による建物の無断改造等が信頼関係を破壊するものであるとして、用法義務違反を理由に賃貸借契約の解除を主張した。これに対し原審は、当該主張を借家法1条ノ2の正当事由による解約申入れの主張であると解釈し、解約申入れによる契約終了を認めて建物明渡しを認容したため、賃借人が弁論主義違背を理由に上告した。
あてはめ
賃貸人の主張は、無断改造という具体的態様を捉えて用法義務違反による解除を求めるものであり、これを借家法上の正当事由による解約申入れと解することはできない。両者は法律効果を発生させる基礎となる主要事実において同一性があるとはいえず、裁判所が独断で後者の事実を認定して判決の基礎とすることは、被告(賃借人)に不意打ちを与え、適切な防御権の行使を妨げるものである。本件において、防御権侵害を否定できるような特段の事情も認められない。
結論
原判決は当事者の主張しない事実に基づいて判断したものであり、弁論主義に違背する。よって、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
弁論主義の対象となる「主要事実」の同一性判断において、法的性質が大きく異なる(債務不履行解除と正当事由解約)場合には、事実認定の基礎となる具体的事実が類似していても同一性を否定する基準として機能する。答案上は、主張されていない要件事実を認定する場合の違法性を論じる際の規範として引用する。
事件番号: 昭和32(テ)11 / 裁判年月日: 昭和36年8月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請求の論理的前提となっている決定の無効を自ら主張することは、主張自体において理由がないものとして認められない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人に対し、裁判所が下した「調停に代わる決定」の内容を履行するよう求める訴えを提起した。しかし、上告人は上告審において、自らが履行の根拠としている当該決定自…