判旨
建物の強制疎開に際し、建物所有者が敷地の借地権をも買収の目的物とすることを承諾し、その補償価額を受領した場合には、賃借権は譲渡されたものと解され、借地権を喪失する。
問題の所在(論点)
強制疎開に伴う建物の買収に際し、敷地の賃借権(借地権)も買収の対象に含まれることを承諾して補償金を受領した場合、賃借権の喪失という法的効果が生じるか。
規範
特定の行政目的(強制疎開等)のために、建物のみならずその敷地に関する賃借権等の権利が買収対象となっている状況において、権利者がその目的および補償内容を承諾し、対価を異議なく受領した場合には、当該権利の譲渡の合意があったものと解するのが相当である。
重要事実
上告人は、本件強制疎開の実施にあたり、自己が所有する建物のほか、その敷地に対する借地権も買収の目的物とされた。上告人は、提示された補償価額の中に敷地の借地権の補償価額が含まれていることを認識した上で、異議なくこれを承諾して受領した。
あてはめ
本件では、強制疎開に際して建物とともに借地権が買収の目的物とされていた。上告人は、この点を含んだ補償価額を承諾し、現実に受領している。この「承諾」という行為は、私法上は賃借権を譲渡する意思表示に該当すると評価できる。したがって、当該承諾によって賃借権は譲渡され、上告人のもとを離れたといえる。
結論
上告人は賃借権の譲渡を承諾し補償を受領したことで、本件土地の賃借権を喪失した。原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
戦時中の強制疎開という特殊な文脈ではあるが、行政処分に伴う補償において、明示・黙示の合意(承諾と受領)によって付随的な私法上の権利(借地権等)が移転・消滅することを認めた事例として、権利の帰属が争われる場面で引用し得る。
事件番号: 昭和26(オ)855 / 裁判年月日: 昭和29年2月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制疎開に際し、建物の補償価額に敷地の借地権の対価が含まれていることを認識した上で、異議なく補償金を受領した場合には、借地権の買上げを承諾したものと認められる。 第1 事案の概要:上告人は本件建物を所有し、その敷地について借地権を有していた。戦時中の強制疎開の実施にあたり、行政側は建物のみならず借…
事件番号: 昭和30(オ)166 / 裁判年月日: 昭和31年9月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権は一個の債権として放棄することが可能であり、当事者間に賃貸借契約の合意解除が成立したと認められる場合には、当該借地権は消滅する。 第1 事案の概要:上告人は、いわゆる第六次強制疎開に際し、東京都から本件土地についての借地権喪失に対する補償を受けた。その後、上告人は当該借地権を放棄する意思を示…
事件番号: 昭和27(オ)1194 / 裁判年月日: 昭和29年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】防空法に基づく建物の強制疎開により土地を借り上げた行政庁は、防空の目的のためにのみ当該土地を使用できるのであり、所有者の承諾なく復興等の他目的で第三者に使用させる権利を有しない。 第1 事案の概要:戦時中、防空法に基づき建物の強制疎開が行われ、東京都が疎開跡地を借り上げた。終戦後、東京都は防空目的…
事件番号: 昭和37(オ)1277 / 裁判年月日: 昭和39年3月13日 / 結論: 棄却
甲所有の土地の一部を乙が賃借して家屋を建築して居住し、甲の居住家屋と相隣関係をなすとき、甲が甲使用の宅地部分に物置を設置して乙が賃借地の境界に植えた生垣の一部を枯死させたとしても、原判示(第一審判決引用)事実関係(第一審判決理由参照)のもとにおいては、乙の賃料不払を理由とする甲の右賃貸借契約解除は権利濫用にあたらない。
事件番号: 昭和28(オ)393 / 裁判年月日: 昭和30年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】戦時罹災土地物件令に基づく賃借権者が、後に同一土地について一時使用の賃貸借契約を締結した場合、特段の事情がない限り、先行する物件令上の賃借権を放棄したものと認められる。 第1 事案の概要:上告人(関)は、戦時罹災土地物件令(物件令)4条1項に基づき、本件土地の一部について賃借権を取得していた。しか…