判旨
賃借権放棄の意思表示の有無を判断するにあたっては、必ずしも賃借権を放棄するという積極的な行為が存在する場合に限られず、消極的な行為からもこれを推断することができる。
問題の所在(論点)
賃借権の放棄という権利の喪失を伴う意思表示の認定において、明示的・積極的な行為が存在しない場合でも、消極的な行為等の諸事情から黙示の意思表示があったと推断できるか。
規範
意思表示は、明示的なものに限られず、諸般の事情を総合した黙示的なもの、すなわち消極的な行為からも推断することが可能である。権利放棄のような重大な法的効果を伴う意思表示であっても、確定した各事実を総合してその合理的な解釈として認められる場合には、黙示の意思表示を肯定できる。
重要事実
上告人(賃借人)は、対象物件の賃借権を保持していたが、その権利を放棄したか否かが争点となった。原審において証拠に基づき確定された具体的な諸事実(具体的な消極的事実の内容は判決文からは不明)に基づき、上告人に賃借権を放棄する意思表示があったと推断・解釈された。これに対し上告人は、積極的な放棄の行為がない以上、権利放棄を認めることは法則違反であるとして上告した。
あてはめ
賃借権放棄の意思表示を認定する基準として、必ずしも「賃借権を放棄する」という文言や直接的・積極的な動作が必要なわけではない。原審が証拠によって確定した事実関係、特に判示された特定の事実に照らせば、賃借人が権利を継続して行使する意思がないことを示す消極的な態度や行動から、客観的に放棄の意思表示があったと解釈することが可能である。本件では、原審が認定した諸事実を総合すれば、上告人に賃借権放棄の意思表示があったと認めるのが相当である。
結論
賃借権放棄は消極的な行為からも推断できる。したがって、原審の判断に権利放棄に関する法則誤解の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
黙示の意思表示の認定手法に関する一般論として活用できる。特に不動産賃貸借において、賃借人が長期間物件を使用せず放置している場合や、鍵を返還せずとも退去の事実が明白な場合など、明示の合意がない状況下での権利消滅を主張する際の論拠となる。答案上は、明示の意思表示が欠ける場面で「諸般の事情を総合した黙示の意思表示」を認定するための解釈指針として引用すべきである。
事件番号: 昭和27(オ)887 / 裁判年月日: 昭和29年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所がいったん採択した証拠決定であっても、当事者が予定された期日までに必要な手続を完了せず、かつその遅延に正当な理由がない場合には、適時提出主義の趣旨に照らし、当該決定を取り消すことができる。 第1 事案の概要:原審において、裁判所は昭和27年5月13日の口頭弁論にて上告代理人の証拠申請を許容す…
事件番号: 昭和26(オ)127 / 裁判年月日: 昭和28年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の放棄は、これにより直接利益を受ける者に対する意思表示によってなされるべきであり、判決言渡期日の変更通知を欠いた手続違背があっても、当事者に具体的な不利益が生じていない限り上告理由にはならない。 第1 事案の概要:上告人は、判決言渡期日の変更に関する通知を受けないまま、変更後の期日において判決…