判旨
売買契約が解除された場合における債務不履行を理由とする損害賠償額は、目的物の引渡しがなされていれば買主が享受できたはずの解除当時の時価と代金との差額を含む。
問題の所在(論点)
売買契約の解除に伴う損害賠償(民法415条、545条4項)において、買主が転売目的ではなく自己使用目的で目的物を購入した場合であっても、目的物の価格騰貴による差額を損害として認めることができるか。
規範
売主が契約の本旨に従い目的物の引渡しをしていれば、買主はその所有者として時価相当の価値を保有し得たといえる。したがって、債務不履行により契約が解除された場合、代金と解除当時における目的物の価格(時価)との差額は、債務不履行によって買主が被った損害として賠償の対象となる。
重要事実
被上告人(買主)は、上告人(売主)から製麺機械を買い受ける契約を締結したが、上告人の債務不履行により当該契約を解除した。本件製麺機は被上告人が自ら使用するためのものであったが、契約締結後、解除時までに当該機械の価格が騰貴した。被上告人は、上告人に対し、解除当時の価格と代金との差額について損害賠償を請求した。
あてはめ
上告人は、本件製麺機が被上告人の自己使用目的であることから、価格騰貴分の賠償は不当であると主張する。しかし、上告人が債務を履行して引渡しを行っていれば、被上告人はその所有者として騰貴した時価相当の価値を現に保有できていたはずである。この利益の喪失は上告人の債務不履行と因果関係のある損害である。したがって、自己使用目的か否かにかかわらず、解除時を基準とした時価と代金の差額は賠償すべき損害の範囲に含まれると解される。
結論
売買契約解除による損害賠償として、目的物の価格騰貴による差額の賠償を認めることができる。
実務上の射程
本判決は、履行に代わる損害賠償(填補賠償)の算定基準時を解除時とする実務を支える重要な先例である。転売益(特別損害)の議論と混同せず、所有権を取得していれば得られたはずの客観的価値(通常損害)の喪失として論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)87 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の債務不履行により解除となった際、債務整理の必要上、物件を不利な条件で早急に転売せざるを得なかったという特別事情がある場合、当該転売価格と当初の売買価格との差額を損害として賠償請求でき、その算定に際して物件の時価を確定する必要はない。 第1 事案の概要:買主(上告人)の代金支払債務不履行に…
事件番号: 昭和28(オ)1027 / 裁判年月日: 昭和31年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約解除後の損害賠償額の算定において、解除当時における目的物の時価相当額を標準として、商人である買主に通常生ずべき損害を算定することは正当である。 第1 事案の概要:木材販売業者である被上告人と、上告人との間で木材の売買契約が締結された。上告人(売主)の木材引渡義務について債務不履行が発生した…