判旨
当事者が原審において自ら鑑定書を援用しない旨を明示した場合、上告審において原審が当該鑑定書を証拠として採用しなかったことを審理不尽等の違法として主張することは許されない。
問題の所在(論点)
当事者が原審の口頭弁論において証拠を援用しない旨を明言した場合に、その証拠を判決の基礎としなかった原審の判断を上告審で争うことができるか。弁論主義に基づく証拠の取捨選択の適法性が問題となる。
規範
民事訴訟における証拠調べは当事者の申出等に基づき、かつ弁論主義の原則下で行われる。当事者が一度提出された証拠について、後の口頭弁論期日において明示的にこれを「援用しない」と述べた場合、裁判所が当該証拠を事実認定の資料から除外したとしても、審理不尽や釈明権行使の誤りといった違法は存しない。
重要事実
上告人は、原審において鑑定人Dが作成した鑑定書が証拠として提出されていたにもかかわらず、原審裁判所がこれを事実判断の資料から除外した点について、審理不尽または釈明権行使の誤りがあるとして上告した。しかし、原審の口頭弁論調書には、双方の代理人が「D作成の鑑定書は援用しない」旨を述べたことが記録されていた。
あてはめ
本件において、原審の口頭弁論調書には双方代理人が鑑定書を援用しない旨を述べた記載がある。当事者が自らの意思で特定の証拠を証拠資料から排除する意向を示した以上、裁判所がこれに従い鑑定書を証拠として採用しなかったことは正当である。したがって、上告審に至ってからこの点について原審の審理に不備がある等と攻撃することは、訴訟上の禁反言ないし自白に類する効果に照らして許されないといえる。
結論
本件上告は棄却される。当事者が援用しないと明言した証拠を裁判所が採用しなかったことに違法はない。
実務上の射程
弁論主義の枠組みにおいて、当事者による証拠の「援用」の有無が事実認定の基礎を画定する重要な要素であることを示している。実務上、一度提出された書証等であっても、期日において明示的に援用を撤回・否定した場合には、後にその不採用を不服として争うことはできないという射程を有する。
事件番号: 昭和30(オ)97 / 裁判年月日: 昭和31年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原判決の証拠の採否や事実認定を非難するにとどまる場合は、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決における証拠の採否および事実認定に誤りがあるとして上告を申し立てた。 第2 問題の所在(論点):原審の証拠採否や事実認定を非難する主張が、適法な上告理由に該当するか。…