判旨
民法192条の適用要件である「占有を始めた」には占有改定が含まれないとされるが、強制競売において執行吏が目的物を保管している場合、競落人への引渡しがどのような態様で行われたかを具体的に審理すべきである。
問題の所在(論点)
強制競売における執行吏から競落人への口頭による引渡しが、民法192条の「占有を始めた」に該当するか。特に、一旦執行吏の占有に帰した物件の引渡しにおいて、占有改定にあたると判断するための事実認定の在り方が問題となる。
規範
民法192条の「占有を始めた」に占有改定(同法183条)が含まれないとされる理由は、外観上の占有状態に変更がない場合には、真の権利者の権利を奪ってまで譲受人の信頼を保護する必要がないためである。したがって、即時取得の成否を判断するにあたっては、現実の引渡し(同法182条1項)等の外観的変化を伴う占有の移転があったか否かを具体的事実に基づき慎重に認定しなければならない。
重要事実
被上告人(組合)所有の林檎80箱がD商店に寄託されていたところ、これに対し強制競売が実施された。上告人は、執行吏が実施した競売において当該林檎を競落したが、林檎はD商店の倉庫に保管されたまま、執行吏が現場で口頭により上告人へ引渡した。原審は、この引渡しが「占有改定」にとどまるとして上告人の即時取得を否定したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件林檎は執行吏の差押えにより、一旦は執行吏の占有に帰属している。この執行吏の占有がどのような経過で上告人に帰属したかについて、原審は単に「占有改定」であると判示するのみで、誰と誰との間にどのような合意がなされたかという具体的態様を明らかにしていない。執行吏が倉庫にある林檎を口頭で競落人に引き渡した際、それが単なる観念的な占有の移転(占有改定)にとどまるのか、あるいは指図による占有移転や簡易の引渡し等の外観を伴うものかは、事実関係を精査すべきである。原審は具体的な事実関係を説示せずに即時取得を否定しており、理由不備があるといえる。
結論
即時取得の成否を判断する上で、占有移転の態様に関する認定が不十分であるため、原判決を破棄し、札幌高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
司法試験においては、即時取得(192条)における「占有を始めた」の意義として、占有改定が排除されることを前提としつつ、本判例を「差押物件の競売における引渡しの態様の認定」の重要性を示すものとして活用する。特に、執行吏を介した占有移転が現実の引渡し等に該当するか否かのあてはめにおいて、本件のような事実関係の不備を指摘する際の視点として有用である。
事件番号: 昭和32(オ)159 / 裁判年月日: 昭和35年12月16日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】即時取得(民法192条)が成立するためには、前主が目的物を現実に占有していたことを要し、真の所有者が占有を完全に喪失していない段階でなされた譲渡には同条の適用はない。 第1 事案の概要:上告会社は訴外Eから物件の注文を受け、代金支払と引換えに引渡す約定をした。上告会社は店員をトラックに同乗させ、取…