判旨
売主が他人の所有物であることを知りながら、自己の所有物であると虚偽の告知をして買主を誤信させ、売買契約を締結させた場合には、民法96条1項の詐欺による意思表示が成立し得る。また、売買目的物が他人の権利である場合には、契約上の解除等(民法561条等)の請求も認められ、当事者が法律条文を特定しなくとも裁判所は適切に審理すべきである。
問題の所在(論点)
売買契約において、売主が他人の所有物であることを秘匿して自己所有物であると偽った場合、民法96条1項の詐欺が成立するか。また、買主の主張から民法561条(他人の権利の売買における担保責任)等の適用を読み取って審理すべきか。
規範
当事者の一方が、不実であることを知りながら相手方に告知し、相手方がその告知を真実であると信じて意思表示をした場合、民法96条1項にいう詐欺による意思表示が成立する。また、現に自己が居住する家屋について、他人所有であることを告げずに契約書に自己所有の旨を記載した事実は、特段の事情がない限り自己所有である旨を告知したものと解される。
重要事実
売主Bは、本件建物の所有者が訴外Eであるにもかかわらず、買主Aに対し、自己が所有者であるかのような言動および契約書への記載を行い、Aに売却した。Aは、Bが所有者であると信じて代金の一部を支払ったが、後にBが所有権を有しないため移転登記ができないことが判明した。Aは、Bによる不実の告知(詐欺)を主張し、また損害賠償や所有権移転不能に関する不満を訴えていたが、原審は詳細な事実関係を審理せずに請求を棄却した。
あてはめ
Bは、実際にはEの所有である家屋につき、契約書に自己所有である旨を記載し、Aに自己所有であると信じさせている。これは詐欺における欺罔行為にあたり、Aがこれを信じて契約した以上、詐欺による意思表示が成立するといえる。また、Aは『所有権移転手続が履践されない』『不法行為である』等と主張しているが、これらは売主が権利を移転できない状態を指しており、民法561条所定の解除等の要件事実を含んでいると解される。当事者が具体的な条文を摘示せずとも、裁判所はその意図を明らかにし、担保責任の観点からも審理を尽くすべきである。
結論
Bの不実告知が詐欺に該当するか、および他人の権利の売買に基づく責任(現行法上の契約不適合責任等)の成否につき、さらに審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
他人物売買自体は有効(民法560条)であるが、売主が自己所有物と偽った場合には詐欺(96条)の取消対象となり得ることを示した。実務上、詐欺と担保責任(現行法では債務不履行責任)は重畳的に主張可能であり、裁判所は当事者の法的構成が不十分であっても、事実主張から適切な法適用を探るべきとする審理尽くしの要請を強調している。
事件番号: 昭和49(オ)314 / 裁判年月日: 昭和50年12月25日 / 結論: その他
売主が他人の権利を自己のものと装つて売却した場合でも他人の権利を目的とする売買として契約は有効に成立する。
事件番号: 昭和25(オ)9 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない重畳的債務引受の事実を裁判所が認定して判決の基礎とすることは、弁論主義に違反し許されない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、売買契約の売主が上告人及び共同被告Dの2名であると主張した。これに対し、上告人は売主は自分単独であり、後に免責的債務引受がなされたと抗弁した。しか…