一 記録を査閲するに、原審の昭和二三年三月二九日の被告人に對する公判期日召喚状に對する、昭和二三年三月八日附東京地方裁判所執行吏の同報告書記載の事件番號は昭和二三年(を)第二〇三號とあり、從つて原審の事件番號たる昭和二三年(を)第二〇二號とは異號の記入がなされてあることは論旨指摘のとおりである。而して該送達報告書は執行吏の作成すべき書類であるが、抑々送達報告書に事件番號を記載せねばならぬ何等の根據はなく、從つて他の記載事項に依つて事件の同一性を認識し得る限り素より適法の送達報告書なること論を俟たない所である。 二 詐欺罪は所有を冐すを必要とするものではなく所持を冐すを以て足るものであり、從つて詐欺罪の成立にはその被害物件の所有權の被害者又は第三者の何人に屬するやは關する所でない。
一 召喚状の送達報告書の事件番號の記入の誤りと送達報告書の適法性 二 詐欺罪の成立要件としての所持の侵害と所有權の歸屬關係
刑訴法80條,民訴法177條,刑法246條
判旨
詐欺罪は財物の所持を侵害することをもって足り、被害物件の所有権の帰属は犯罪の成否に影響しないため、起訴状に所有者の誤記があっても公訴事実の同一性は失われない。
問題の所在(論点)
詐欺罪の成立において被害物件の所有権の帰属が不可欠な要素となるか。また、起訴状における所有者の誤記が公訴事実の特定や裁判所の審判範囲に影響を及ぼすか。
規範
詐欺罪は、所有権のみならず財物の所持を侵すことをもって足りる。したがって、被害物件の所有権が被害者または第三者のいずれに属するかは犯罪の成否に関わる事項ではない。
重要事実
被告人はAを欺罔して自転車を詐取したが、当該自転車の真の所有者はBであった。検察官は、公判請求書(起訴状)において「A等所有の」自転車である旨を記載したが、弁護人は、起訴状の記載は「所有者Bを欺罔した事実」を指すものであり、原審が「Aを欺罔した事実」を認定したのは、審判の請求を受けない事件について判決をした違法(旧刑訴法410条18号)があると主張した。
あてはめ
詐欺罪は所持の侵害で足りるため、検察官が自転車をAの所有と誤認・誤記して起訴状に記載したとしても、それは所有関係を便宜上説明したものにすぎない。本件の全記録によれば、当該公訴提起は所有者Bに対する詐欺ではなく、依然として「Aを欺罔した詐欺事実」を対象としていることは明確である。したがって、検察官が公判で陳述した事実に即して原審が事実認定を行ったことは、審判の請求を受けた範囲内での適法な判決といえる。
結論
詐欺罪の成立に所有権の帰属は不要であり、起訴状に所有者の誤記があっても対象となる欺罔事実に変わりはないため、原判決に不告不理の原則違反はない。
実務上の射程
財産犯における被害者の特定や公訴事実の同一性に関する判断枠組みとして活用できる。特に、所有者と占有者が異なる場合の起訴状の記載漏れや誤記が、直ちに公訴棄却や審判対象の不一致を招くものではないことを示す根拠となる。
事件番号: 昭和26(オ)683 / 裁判年月日: 昭和29年9月21日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】売主が他人の所有物であることを知りながら、自己の所有物であると虚偽の告知をして買主を誤信させ、売買契約を締結させた場合には、民法96条1項の詐欺による意思表示が成立し得る。また、売買目的物が他人の権利である場合には、契約上の解除等(民法561条等)の請求も認められ、当事者が法律条文を特定しなくとも…
事件番号: 昭和23(れ)544 / 裁判年月日: 昭和23年10月12日 / 結論: 棄却
一 論旨中段は判示米穀は被告人Aの領有に歸したことがないから騙取財物ではないというのであるが、原審の認定した事實によれば被告人Aは精米所主任Bを錯誤に陷らしめて同人の保管する判示米穀の所持を自己の企圖する者の占有に移したというのであるから、詐欺罪の成立をさまたげるものではない。 二 論旨は判示米穀は所謂市販性商品性がな…