判旨
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。本判決は、この意思の有無が窃盗罪の成否を分ける重要要件であることを前提としている。
問題の所在(論点)
窃盗罪の成立要件として、客観的な占有移転の事実に加え、主観的超過要素としての「不法領得の意思」が必要か、またその内容はどのようなものか。
規範
窃盗罪(刑法235条)における「不法領得の意思」とは、①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振る舞う意思(排除意思)と、②その物の経済的用法に従い利用・処分する意思(利用処分意思)をいう。
重要事実
被告人AおよびBが、他人の財物を窃取したとして起訴された事案である。被告人らは上告において、刑訴法405条所定の上告理由を主張したが、事案の具体的な犯罪事実の詳細は本判決文(上告棄却決定)からは不明である。原審までの事実認定に基づき、窃盗罪の成立が維持されたものである。
あてはめ
最高裁判所は、弁護人らの上告趣意を検討した結果、刑訴法405条の規定する違憲や判例違反などの上告理由に当たらないと判断した。また、職権で調査しても刑訴法411条を適用して原判決を破棄すべき顕著な正義に反する事由(不法領得の意思の欠如等による誤った認定など)は認められなかった。したがって、被告人らによる他人の財物の占有移転行為には、排除意思および利用処分意思からなる不法領得の意思が認められると解される。
結論
本件各上告を棄却し、被告人らに窃盗罪が成立するとした原判決の判断を維持した。
実務上の射程
本判決は、不法領得の意思の定義を確立したリーディングケースの一つである。答案上では、一時使用(使用窃盗)と窃盗罪を区別する際の「排除意思」の検討や、毀棄・隠匿の意思と区別する際の「利用処分意思」の検討において、本判決が示す定義を規範として明示し、具体的な事実関係をあてはめる際の基準として用いる。
事件番号: 昭和26(あ)2705 / 裁判年月日: 昭和30年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪(刑法246条1項)の成立に必要な不法領得の意思は、自己のために利得する場合に限られず、第三者に利得させる目的であっても認められる。 第1 事案の概要:被告人が、地方事務所(公的機関・団体等)に対して不当な利益を得させる目的で、人を欺いて財物を交付させた事案。弁護人は、被告人自身に利得させる…
事件番号: 昭和51(あ)122 / 裁判年月日: 昭和51年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法領得の意思に関し、利用処分意思については、権利者を排除して自己の所有物として振る舞う意思(排除意思)だけでなく、その経済的用法に従い処分する意思(利用処分意思)を必要とする立場を維持したものである。 第1 事案の概要:本件判決文自体からは具体的な事案事実は不明であるが、被告人が弁護人を通じて、…
事件番号: 昭和23(れ)544 / 裁判年月日: 昭和23年10月12日 / 結論: 棄却
一 論旨中段は判示米穀は被告人Aの領有に歸したことがないから騙取財物ではないというのであるが、原審の認定した事實によれば被告人Aは精米所主任Bを錯誤に陷らしめて同人の保管する判示米穀の所持を自己の企圖する者の占有に移したというのであるから、詐欺罪の成立をさまたげるものではない。 二 論旨は判示米穀は所謂市販性商品性がな…