虚無人名義の文書偽造に関する旧判例が変更されていることが明示された事例
刑法159条
判旨
不法領得の意思に関し、利用処分意思については、権利者を排除して自己の所有物として振る舞う意思(排除意思)だけでなく、その経済的用法に従い処分する意思(利用処分意思)を必要とする立場を維持したものである。
問題の所在(論点)
窃盗罪の成立に必要な「不法領得の意思」の内容、特に利用処分意思の要否およびその判断枠組みが問題となった。
規範
窃盗罪における不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思をいう。単なる一時使用(使用窃盗)や、物の毀棄・隠匿を目的とする場合とを区別する機能を有する。
重要事実
本件判決文自体からは具体的な事案事実は不明であるが、被告人が弁護人を通じて、過去の大審院判例を引用し、自己の行為が不法領得の意思を欠くため窃盗罪は成立しない旨を主張して上告した事案である。
あてはめ
最高裁は、弁護人が引用した大審院判例(利用処分意思を不要とする趣旨のもの)は、既に昭和25年および昭和27年の最高裁判決によって変更されていると指摘した。これにより、現行の判例法理においては、不法領得の意思として「権利者排除意思」だけでなく「利用処分意思」も必要であるという判断枠組みが確立していることを再確認した。本件の上告理由は、この確立した判例法理に照らして上告理由(刑訴法405条)に当たらないと評価された。
事件番号: 昭和61(あ)1418 / 裁判年月日: 昭和62年2月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において、訴訟記録および第一審の証拠のみに基づき直ちに被告事件の犯罪事実を確定して有罪判決を下すことは、適正な事実認定のあり方に照らして制限されるが、本件ではそのような手続上の瑕疵は認められない。 第1 事案の概要:第一審で無罪判決を受けた被告人に対し、控訴審(原審)が有罪判決を言い渡した。…
結論
不法領得の意思には利用処分意思が必要であるという従来の最高裁の立場を維持し、上告を棄却した。
実務上の射程
答案上では、一時使用(使用窃盗)や毀棄隠匿意思との区別が必要な場面で、不法領得の意思の定義として引用する。特に、物の価値を費消する意思や経済的用法に従う意思の有無が争点となる場合に、本判決が引用した昭和20年代の判例と併せて、現在の通説的実務(二要素説)の根拠として用いる。
事件番号: 昭和42(あ)2823 / 裁判年月日: 昭和43年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧大審院判例を変更した昭和25年2月24日最高裁決定を踏襲し、いわゆる「一事不再理の原則」や「罪数論」における既判力の範囲について、先行する確定判決の効力が及ぶ範囲を限定的に解する立場を維持したものである。 第1 事案の概要:被告人が上告を申し立てた事案であるが、判決文本文には具体的な公訴事実や被…
事件番号: 昭和41(あ)2908 / 裁判年月日: 昭和42年9月7日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】有印私文書偽造・同行使罪の共謀が認められるためには、単に虚偽内容の文書を作成して資金を借り受ける意思や共謀があるだけでは足りず、特定の他人の名義を冒用して文書を偽造し、これを行使することについての具体的な認識ないし共謀が必要である。 第1 事案の概要:被告人Aは、共犯者BおよびCと、架空の溜池改修…
事件番号: 昭和29(あ)2875 / 裁判年月日: 昭和31年7月17日 / 結論: 棄却
所論の認印一個は、所論のように被告人の所有に属するものでなく、被害者Aの所有とすれば、これを没収したことは違法たるを免れないが、本件においては原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。