所論の認印一個は、所論のように被告人の所有に属するものでなく、被害者Aの所有とすれば、これを没収したことは違法たるを免れないが、本件においては原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
被害者の所有に属する物件を没収した違法が刑訴法四一一条に該当しない一事例
刑法19条2項,刑訴法411条
判旨
没収の対象物が被告人以外の第三者の所有に属する場合であっても、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められない限り、上告理由とはならない。
問題の所在(論点)
被告人以外の第三者が所有する物件を没収した判決に違法がある場合、それが直ちに刑事訴訟法411条による破棄事由(著しく正義に反するもの)に該当するか。
規範
刑法19条に基づく没収において、対象物が被告人以外の第三者の所有に属する場合、その没収は原則として違法となる。しかし、上告審においては、当該違法が刑法上の適法な没収の範囲を逸脱していたとしても、刑事訴訟法411条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる事情がない限り、上告は棄却される。
重要事実
被告人が犯行に使用した認印一個が没収されたが、弁護人は当該認印が被告人の所有ではなく被害者Aの所有に属するものであると主張し、没収の違法を理由に上告した。原判決および記録によれば、当該認印が被害者の所有である可能性が示唆されていた。
事件番号: 昭和26(れ)838 / 裁判年月日: 昭和26年10月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実質的に刑事訴訟法411条(判決の破棄)の事由を主張するにすぎない上告理由は、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が憲法違反を主張して上告を申し立てた。しかし、その主張の実質は、刑事訴訟法411条が規定する「著しく正義に反すると認めるとき」等の職権破棄事由があることを主張するも…
あてはめ
本件における認印一個の没収は、仮にそれが被害者Aの所有物であったとすれば違法である。しかし、認印一個という没収対象の性質や価値、事案全体の軽重に照らせば、この程度の違法は、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。したがって、職権破棄事由には当たらない。
結論
本件上告は棄却される。第三者の所有物を没収した点に違法があるとしても、直ちに職権破棄を要するほど著しく正義に反するとはいえない。
実務上の射程
第三者の所有物没収に関する違憲判断(最高裁大法廷昭和37年11月28日判決)以前の判断であるが、手続保障を欠いた第三者所有物の没収が直ちに破棄事由になるわけではないという、上告審における職権破棄の抑制的運用の一例として機能する。
事件番号: 昭和51(あ)122 / 裁判年月日: 昭和51年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法領得の意思に関し、利用処分意思については、権利者を排除して自己の所有物として振る舞う意思(排除意思)だけでなく、その経済的用法に従い処分する意思(利用処分意思)を必要とする立場を維持したものである。 第1 事案の概要:本件判決文自体からは具体的な事案事実は不明であるが、被告人が弁護人を通じて、…
事件番号: 昭和25(あ)3506 / 裁判年月日: 昭和27年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実質的に刑事訴訟法411条に該当する事由を憲法違反として主張する上告は、適法な上告理由とは認められず、また裁判所が職権で同条を適用すべき事由も認められない場合には上告が棄却される。 第1 事案の概要:被告人側は、原判決等に憲法違反があるとして本件上告を提起した。しかし、その趣意書の内容を検討したと…
事件番号: 昭和25(あ)2008 / 裁判年月日: 昭和26年6月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件決定は、訴訟法違反や量刑不当の主張は刑事訴訟法405条の上告理由に該当せず、職権調査の結果によっても同法411条を適用して原判決を破棄すべき事由は認められないとして、上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人Aが上告した事案において、その上告趣意の内容は、第一点および第二点が訴訟法違…
事件番号: 昭和61(あ)1418 / 裁判年月日: 昭和62年2月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において、訴訟記録および第一審の証拠のみに基づき直ちに被告事件の犯罪事実を確定して有罪判決を下すことは、適正な事実認定のあり方に照らして制限されるが、本件ではそのような手続上の瑕疵は認められない。 第1 事案の概要:第一審で無罪判決を受けた被告人に対し、控訴審(原審)が有罪判決を言い渡した。…