一 論旨中段は判示米穀は被告人Aの領有に歸したことがないから騙取財物ではないというのであるが、原審の認定した事實によれば被告人Aは精米所主任Bを錯誤に陷らしめて同人の保管する判示米穀の所持を自己の企圖する者の占有に移したというのであるから、詐欺罪の成立をさまたげるものではない。 二 論旨は判示米穀は所謂市販性商品性がないから賣買したとしても眞の意味の賣買ではなく、金錢の授受があつたとしてもそれは物價統制令に所謂統制額を超えた代金に該當しないから物價統制令違反となる理由がないというのであるが、判示米穀に關し被告人間にそれぞれ事實上賣買が行はれた以上は、その賣買に對する私法上の効果如何を問はず其賣買事實が物價統制令に低觸する場合においては、同令違反として處罰せられるべきは勿論である。
一 財物を自己の企圖する者の占有下に取得した場合における詐欺罪の成立 二 米穀の賣買と物價統制令違反
刑法246條,物價統制令3條
判旨
詐欺罪における財物の交付は、欺罔により相手方を錯誤に陥らせ、財物の所持を自己または自己の企図する者の占有に移転させることで成立し、必ずしも犯人自身の領有に帰する必要はない。また、統制物資の売買につき私法上の効果が否定される場合であっても、事実上の売買が行われた以上は物価統制令違反の罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 詐欺罪の成立において、欺罔により移転した財物が犯人自身の「領有」に帰することが必要か。 2. 私法上無効とされる統制物資の売買について、物価統制令違反の罪が成立するか。
規範
1. 詐欺罪(刑法246条1項)の成立には、欺罔行為により被欺罔者を錯誤に陥らせ、その処分行為に基づき、財物の所持を自己または自己の企図する第三者の占有に移転させることが必要である。犯人自身が財物を領得し、自己の所有とする(領有に帰する)ことまでは要しない。 2. 物価統制令違反の罪は、経済秩序の維持を目的とするため、当該売買の私法上の効力の有無を問わず、事実上の売買行為が存在すれば成立する。
重要事実
被告人Aは、食糧営団の使用人としての立場を利用し、精米所主任Bに対して偽造された指図書等を提示するなどの欺罔行為を行った。これによりBを錯誤に陥らせ、Bが保管していた米穀を、Aが企図した第三者の占有下に移転させた(横流し)。被告人C、D、Eらは、この米穀をAから買い受けるなどした。弁護人は、米穀がA自身の領有に帰していない以上詐欺罪は成立せず、また統制物資の売買は私法上無効であるから物価統制令違反も成立しないと主張して上告した。
あてはめ
1. 詐欺罪について、被告人Aは精米所主任Bを錯誤に陥らせ、Bの保管する米穀の所持を、Aが企図する者の占有に移したことが認められる。占有が自己の支配下または意図した者の下に移転した以上、財物の「交付」があったといえ、Aが自己の所有物としたか否かは罪の成立に影響しない。 2. 物価統制令違反について、被告人間で事実上の売買が行われた事実に照らせば、その取引が私法上の効果(有効・無効)を有するか否かにかかわらず、同令の規制対象となる「売買」に該当すると解するのが相当である。
結論
被告人Aに詐欺罪が成立し、また、私法上の無効にかかわらず被告人らに物価統制令違反が成立するとした原判決は正当である。本件各上告を棄却する。
実務上の射程
詐欺罪における「財物の取得」が、単なる占有の移転(所持の移転)で足りることを明確にした判例である。司法試験においては、不法領得の意思のうち「利用処分意思」の検討において、自己の利得のみならず第三者に利得させる目的であっても、占有の移転があれば詐欺罪が成立するという論理で引用し得る。また、行政刑法における「売買」の概念が私法概念に拘束されないことを示す資料としても有用である。
事件番号: 昭和24(れ)1833 / 裁判年月日: 昭和24年11月15日 / 結論: 棄却
本件はいわゆる「幽霊人口」を作爲し食糧營團配給係員を欺き主要食糧の配給を受けた事件であるところ、末尾に添えた別紙辯護人岡崎耕造上告趣意書の論旨は、本件の被害法益は「單なる財産權」ではなくして「國民一般的生活權」であるから、原審がこれを單なる財産權の侵害行爲なしとして詐欺罪に問擬したのは擬律錯誤である、というのである。し…