一 主食の配給は食糧管理法によつて行われて居るものであり、同法が憲法第二五條に違反するものでないことは既に當裁判所大法廷の判例とする處である(昭和二三年(れ)第二〇五號事件同年九月二九日大法廷判決)従つて論旨は採用し得ない。 二 飯米通帳に一旦記入したからといつて配給物受領の委託があつたものとはいえない。原審は右委託の事實は認めず「他所で働くこととなり。轉出手續をしないで立去り右飯米通帳に同人等六名の名義が殘存して居たのを奇貨として配給名義の下に飯米を騙取しようと企て」云々と明に判示して居るのであつて、かかる場合詐欺が設立すること勿論である(當裁判所において同種の事件につき原判決の判示を以てしては詐欺が成立するか否かわからないとして原判決を破毀した例があるけれども、それは原審舉示の證據によると、従来被告人方に居た者が一時的に他所へ行つた場合の様に見え原判文を以てしては勿論證據と對照しても詐欺が成立するかどうかわからない事案であつて本件の様に確定的に被告人方を去つてしまつた場合とは異るのである)尚配給物騙取の場合代金を支拂つても詐欺が成立することは當裁判所の判例とする處である(昭和二二年(れ)第六號事件同二三年六月九日大法廷判決)
一 食糧管理法の合憲性 二 轉出手續をしないで立去つた六名の名儀の下に飯米を騙取した行爲と詐欺罪の成否−公定代金を支拂つた場合と詐欺罪の成否
食糧管理法1條,憲法25條,刑法246條
判旨
飯米通帳に名義が残っていることを奇貨として、既に転出した者の配給名義を装い食糧を騙取した場合、代金を支払ったとしても詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。
問題の所在(論点)
1. 転出した者の名義が残る飯米通帳を利用して配給を受ける行為が、詐欺罪の欺罔行為に該当するか。 2. 配給物の交付に対し相当の代金を支払った場合であっても、詐欺罪は成立するか。
規範
詐欺罪における「欺いて」とは、相手方がその点について真実を知っていれば財物の交付をしないであろう重要な事項を偽ることをいう。また、正当な配給を受ける権利がないにもかかわらず、配給名義を偽って財物を交付させた場合には、対価として代金を支払ったとしても、財物に対する占有を侵害したものとして詐欺罪が成立する。
重要事実
被告人は、同居していた者たちが他所へ働きに出るため確定的に被告人方を去ったにもかかわらず、転出手続がなされず飯米通帳に6名分の名義が残存していることを利用。配給物受領の委託を受けていないにもかかわらず、右配給名義を装って飯米を騙取しようと企て、食糧の交付を受けた。被告人側は代金を支払っていることや、通帳に記入があることをもって正当な受領権限がある旨を主張した。
あてはめ
1. 本件において、名義人らは既に被告人宅を確定的に離脱しており、被告人が配給物受領の委託を受けていた事実もない。それにもかかわらず、名義が残っていることを奇貨として他人の名義を冒用し、配給担当者を誤信させて食糧の交付を受ける行為は、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る欺罔行為に当たる。 2. 配給制度下においては、特定の資格者にのみ限定的に財物を分配する趣旨であるから、受領資格を偽って交付させた以上、代金の支払という対価提供があっても、交付決定そのものに瑕疵があるため、財産的損害(または財物交付の事実)が認められる。
結論
被告人に詐欺罪が成立する。代金を支払ったとしても、配給名義を偽って確定的に転出した者の分の食糧を騙取した以上、同罪の成立を妨げない。
実務上の射程
本判決は、詐欺罪における「財産的損害」の要件に関し、実質的な経済的損失がなくても、交付の目的や公的な配給制度の趣旨に照らして、本来交付されないはずの者に交付させた場合に罪を認める趣旨(形式的個別財産説的アプローチ)を示すものとして、現代の行政給付詐欺や特殊詐欺の文脈でも参照し得る。
事件番号: 昭和24(れ)1833 / 裁判年月日: 昭和24年11月15日 / 結論: 棄却
本件はいわゆる「幽霊人口」を作爲し食糧營團配給係員を欺き主要食糧の配給を受けた事件であるところ、末尾に添えた別紙辯護人岡崎耕造上告趣意書の論旨は、本件の被害法益は「單なる財産權」ではなくして「國民一般的生活權」であるから、原審がこれを單なる財産權の侵害行爲なしとして詐欺罪に問擬したのは擬律錯誤である、というのである。し…