判旨
実在しない多数の者を装い、配給所の係員を欺罔して主食配給名下に米を交付させた行為は、刑法246条の詐欺罪を構成する。被告人が主張する当時の特殊な事情があったとしても、虚偽の事実に基づき公的な配給制度から物資を騙取する行為は正当な行為とは認められない。
問題の所在(論点)
実在しない架空の人物の名義を利用して配給物資を交付させた行為について、詐欺罪が成立するか。また、当時の食糧事情等の背景により当該行為の正当性が認められ、違法性が阻却されるか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)が成立するためには、①欺罔行為、②相手方の錯誤、③錯誤に基づく交付行為、④財物の移転が必要である。また、形式的に犯罪構成要件に該当する場合であっても、社会観念上正当とされる特段の事情がない限り、違法性は阻却されない。
重要事実
飯場を経営する被告人が、実際には存在しない71名(Aら)が実在し、主食の配給を受ける権利があるかのように装った。東京都B配給所の係員に対し、この虚偽の事実を告げて欺罔し、主食米換算で合計3891.988kgを交付させ、これを騙取した。被告人側は、当時の社会情勢等の事情から当該行為は正当なものであると主張した。
あてはめ
被告人は、実在しない71名があたかも存在するかのように装っており、これは配給担当者に対し、交付の判断の基礎となる重要な事実を偽る「欺罔行為」にあたる。この欺罔により係員は錯誤に陥り、本来交付すべきでない主食米を交付しているため、財物の移転も認められる。被告人が主張する諸事情(飯場経営上の困窮等)を考慮しても、架空名義を用いた組織的な騙取行為が社会的に正当な業務や緊急避難的行為として許容される余地はなく、違法性は阻却されない。
結論
被告人の行為は詐欺罪の構成要件をすべて満たし、正当な所為とは認められないため、詐欺罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、終戦直後の混乱期における食糧配給制度をめぐる事案であるが、現代においても、補助金や給付金の申請において実在しない人物や権利を捏造して公的機関から財物を交付させる行為が詐欺罪を構成することを確認する際の基礎となる。また、動機に同情すべき点がある等の主観的事情があったとしても、客観的な欺罔行為の違法性が容易に阻却されないことを示す事例として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)2535 / 裁判年月日: 昭和25年2月24日 / 結論: 棄却
架空人名義の主要食糧配給通帳をその名義人が實在するもののように装い配給所にて提出して主要食糧の配給を受けたときは詐欺罪が成立し食糧緊急措置令第一〇條本文の適用はない。