一 該通帳は警察署において領置されたものであつて特に原審第一回公判期日前公判準備のため訴訟關係人から提出されたものではないのであるから、刑訴第三四二條に所謂取調を要する證據書類には該當しないのである。(昭和一三年(れ)第二五六號事件同年六月一三日言渡大審院判決、同一一年(れ)第五一三號事件同年六月一五日言渡大審院判決參照)。從つて假りに右通帳につき證據調が爲されなかつたとしても原判決に所論のような違法があるとはいい得ない。 二 A某外五名のために、B外五名の移動證明書を利用して主食の配給を受けた行爲は詐欺罪を構成する。 三 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは偏頗や不公平のおそれのない組織と構成とをもつた裁判所によろ裁判という意味であつて必ずしも個々の事件につきその内容實質が具體的に公正妥當な裁判という意味ではない。
一 警察署において領置された書類と刑訴法第三四二條 二 他人の移動證明書による主食の受配と詐欺罪 三 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」の意義
刑訴法342條,刑法246條,憲法37條1項
判旨
食糧配給制度において、虚偽の移動証明書を用いて正当な受配権限のない者の分まで食糧の交付を受ける行為は、国家全体での受配総量に変動がないとしても、詐欺罪を構成する。詐欺罪の保護法益は個別の財物であり、配給制度の円滑な運営を阻害する欺罔行為によって財物を交付させた以上、同罪が成立する。
問題の所在(論点)
配給制度において、居住実態のない者の名義を冒用して食糧の交付を受けた場合、受配人数自体は実在の人数と合致し、国家全体での供給量に影響を与えないとしても、詐欺罪の「欺罔」および「財物の交付」が認められるか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)における被害法益は不当に騙取される個々の財物である。配給制度下の物品であっても、特定の配給機関に対し、正当な受配資格を欠くにもかかわらず欺罔手段を用いて財物を交付させた場合には、その財物自体を対象とする詐欺罪が成立する。国家全体の配給総量や配給制度の目的達成の成否は、個別の詐欺罪の成否を左右しない。
重要事実
被告人は、雇い入れた従業員6名が移動証明書を持たず主食の配給を受けられなかったため、他人の移動証明書を利用し、これら6名が自己の同居人であるとの虚偽の申告を行って配給通帳に登載を受けた。被告人はこの通帳を食糧営団の係員に提示し、あたかも当該6名が実際に居住しており配給を受ける権利があるかのように装い、白米および押麦の交付を受けた。
あてはめ
被告人が提示した6名は、当該出張所の管轄内には居住しておらず、同所から配給を受ける権利を一切有していなかった。それにもかかわらず、虚偽の移動証明書を用いて同居人であると誤信させた行為は、交付の判断の基礎となる重要な事実を偽る欺罔行為にあたる。係員はこの欺罔により被告人に配給資格があるものと誤信し、本来交付すべきでない食糧を交付したといえる。弁護人は、配給制度の本質は受配人数の正確性にあると主張するが、詐欺罪の保護法益は個別の財物であり、正当な受配権限のない場所で不正に物品を交付させた以上、財産権の侵害が認められる。
結論
被告人の所為は詐欺罪に該当する。管轄の配給機関から正当に受配し得ない食糧を、欺罔によって交付させた以上、同罪の成立は免れない。
実務上の射程
行政上の配給・給付制度における詐欺の成否を判断する際の重要判例。国家全体としての経済的損失の有無(実質的被害の有無)ではなく、個別の交付判断における欺罔の有無と、それによる個別財物の移転を重視する。司法試験では、生活保護等の公的給付の不正受給事案において、要件を欠くにもかかわらず給付を受けた場合の構成を論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和24(れ)1833 / 裁判年月日: 昭和24年11月15日 / 結論: 棄却
本件はいわゆる「幽霊人口」を作爲し食糧營團配給係員を欺き主要食糧の配給を受けた事件であるところ、末尾に添えた別紙辯護人岡崎耕造上告趣意書の論旨は、本件の被害法益は「單なる財産權」ではなくして「國民一般的生活權」であるから、原審がこれを單なる財産權の侵害行爲なしとして詐欺罪に問擬したのは擬律錯誤である、というのである。し…