被告人は本件衣類の保管者であるAが金をくれなければ絶対に被害品たる衣類を返さず、半年一年と金をくれるのが長びけば処分する意思であつたというのであるから、いわゆる不法領得の意思がなかつたということはできない。
不法領得の意思なしといえない一事例
刑法235条
判旨
窃盗罪における不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用・処分する意思をいい、一時的な利用であってもこの意思は認められる。
問題の所在(論点)
権利者に対して金銭の支払を要求し、それに応じない場合に備えて目的物を長期間留置・処分しようとする意思がある場合、窃盗罪における「不法領得の意思」が認められるか。
規範
窃盗罪の成立には、構成要件的事実の認識(故意)に加え、不法領得の意思が必要である。不法領得の意思とは、①権利者を排除して他人の物をあたかも自己の所有物のごとく振る舞う意思(権利者排除意思)と、②その物の経済的用法に従って利用又は処分する意思(利用処分意思)をいう。また、永久的にその物の経済的利益を保持する意思(不可逆的占有移転の意思)までは必要としない。
重要事実
被告人は、衣類の保管者であるAに対し、金銭の支払を要求した。被告人は、Aが金を支払わなければ絶対に当該衣類を返還せず、支払が半年、一年と長引くようであれば、当該衣類を処分してしまうという意思を持ってこれを取り扱った。
あてはめ
被告人は、Aが金銭を支払わない限り衣類を返還しないという態度を示しており、これは真の権利者であるAの占有を排して自己の支配下に置こうとするものであるから、権利者排除意思が認められる。また、金銭の支払が遅延した場合には衣類を処分する意思を有していたことは、当該衣類を自己の所有物と同様に取り扱い、その経済的価値を享受・処分しようとするものといえる。したがって、一時的な留置の主観を超え、その物の経済的用法に従う利用処分意思も認められる。
結論
被告人には不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。
実務上の射程
本判決は不法領得の意思の定義(排除意思と利用処分意思)を明確にしたリーディングケースである。答案上では、毀棄隠匿罪との区別(利用処分意思の要否)や、使用窃盗との区別(排除意思の要否)を論じる際の規範として用いる。特に「一時的な使用」や「金銭要求の手段」としての持ち出しが問題となる事案で、本件のように処分の可能性を示唆している事実は不法領得の意思を肯定する有力な事情となる。
事件番号: 昭和28(あ)3632 / 裁判年月日: 昭和30年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として振る舞い、その経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。判例は、この意思の有無を基準に、窃盗罪と一時的な使用窃盗を区別している。 第1 事案の概要:本判決の原文からは、具体的な事案の詳細は不明である。しかし、本件は刑法における「不法領…