他人のカメラを自己の鞄の中に入れて持ち出す際にこれを売ろうとかと自分の家で使つて見ようという判然とした考がなくても、人に見付からなければ家まで持つて帰ろうと思つて持帰ることは、すなわち他人の物を自己の所有物としようという意思があつて、特段の事情のない限り領得の意思があると認めるべきであるとする判断は、不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用若しくは処分する意思に外ならないとする判例と相反する判断をしたものではない。
判例と相反する判断をしたものと認められない事例
刑法235条
判旨
窃盗罪における不法領得の意思に関し、権利者を排除して所有者として振る舞う意思があれば、行為時に具体的な利用・処分方法が決定していなくても同意思が認められるとした。
問題の所在(論点)
窃盗罪の成立に必要な「不法領得の意思」のうち、利用処分意思が認められるためには、行為時において将来の具体的な処分方法や利用方法が決定している必要があるか。
規範
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用し又は処分する意思をいう。もっとも、行為時において将来の具体的な処分方法や利用方法が確定していることは必要ではなく、他人の物を勝手に自宅に持ち帰る行為自体が、特段の事情のない限り、権利者を排除して所有者でなければできない行為をする意思(利用処分意思)を推認させるに足りる。
重要事実
被告人は、他人のカメラを自己の鞄の中に入れ、人に見つからなければ家まで持って帰ろうと考えて持ち出した。その際、当該カメラを売却する、あるいは自宅で使用するといった具体的な処分・利用方法についての確定的な考えは持っていなかった。弁護人は、経済的用法に従い利用処分する意思がないため不法領得の意思を欠くと主張して上告した。
あてはめ
被告人は他人のカメラを自己の鞄に入れ、見つからなければ自宅へ持ち帰る意図で持ち出している。このような行為は、権利者を排除して自己の所有物として扱う意思の現れといえる。たとえ行為時に「売る」か「使う」かという判然とした考えがなかったとしても、他人の物を勝手に自宅に持ち帰るという行為自体が、所有者でなければできない行為を遂行する意思を含むものである。したがって、特段の事情がない限り、不法領得の意思(利用処分意思)が認められると解される。
結論
被告人に不法領得の意思は認められ、窃盗罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
不法領得の意思のうち「利用処分意思」の程度を画した判例である。一時使用(使用窃盗)や毀棄隠匿の意思との区別において、具体的な用途の確定まで求めないことを示しており、あてはめでは「所有者でなければできない行為」という評価が重要となる。
事件番号: 昭和26(あ)1620 / 裁判年月日: 昭和28年2月13日 / 結論: 棄却
被告人は本件衣類の保管者であるAが金をくれなければ絶対に被害品たる衣類を返さず、半年一年と金をくれるのが長びけば処分する意思であつたというのであるから、いわゆる不法領得の意思がなかつたということはできない。