一 およそ窃盗罪の成立には不正領得の意思あることを必要とし、そして不正領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思をいうのである。 二 およそ判決がその事実認定の部において被告人は他人の所持保管にかかる他人所有の動産数点を窃取したものであるとの趣旨を判示した以上はそのいわゆる窃取は不法領得の意思をもつて為されたものであるとの趣旨を示したものと解するのを相当とする。
一 窃盗罪の成立に必要な不正領得の意思 二 判示に「窃取」とある文言には不法領得の意思をもつてなされたとの趣旨を含むか
刑法235条
判旨
窃盗罪の成立には不法領得の意思が必要であり、それは権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用・処分する意思を指す。判決文において「窃取」の語を用いることは、通常この不法領得の意思が認められることを包含していると解される。
問題の所在(論点)
窃盗罪の成立に「不法領得の意思」が必要か。また、原判決が単に「窃取」と認定した場合に、不法領得の意思を認めたものと解してよいか。
規範
窃盗罪(刑法235条)の成立には、主観的構成要件として「不法領得の意思」が必要である。これは、①権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し、または②処分する意思をいう。
重要事実
被告人は、被害者から借金を拒絶されたことを恨みに思い、工事作業場に保管されていたじよれん九挺、川舟一艘、作業器具百十数点(総額約2万数千円相当)を持ち出し、川舟に荷物を積載して相当な時間にわたり操縦した。その後、一部の器具を約25町下流の藪の中に投げ置き、川舟を約一里半下流の川岸に繋留した。原判決は「窃取」の事実を認定したが、不法領得の意思の有無について特段の明文での説示がなかったため、被告人が上告した。
あてはめ
被告人は金に困っている状況下で、多量の作業器具等を自己の手中に収め、川舟を長時間操縦して移動させている。この行為は、本来の所有者等の利用を妨げるものであり、①権利者排除意思が認められる。また、川舟を自ら操縦し、器具を積載して運搬する行為は、それら物件を本来の目的に沿って用いているといえ、②経済的用法に従い利用・処分する意思も認められる。したがって、被告人の一連の行為には不法領得の意思が推認される。原判決が「窃取」と判示したことは、これらの意思を含めて認定したものと解するのが相当である。
結論
被告人には不法領得の意思が認められるため、窃盗罪が成立する。原判決に判例違反の誤りはない。
実務上の射程
不法領得の意思の定義(排除意思・利用処分意思)を引用する際のリーディングケースである。答案上は、一時使用(排除意思の欠如)や毀棄隠滅の意思(利用処分意思の欠如)と区別する際の判断枠組みとして用いる。本判決は、認定された「窃取」という文言の背後に不法領得の意思が含まれることを認めており、事実認定の合理性を示す際にも有用である。
事件番号: 昭和32(あ)1135 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
河川の流れに入り、大水で漂流中の木材一本(トガの木、直径三尺、長さ二間)を拾得して河岸に引揚げた上、その流失を防ぐため、附近の柱に巻きつけてあつた他人所有の電線三本長さ二一メートル(同所からの揚水用モーターに送電するためのもので、当時は大水に備え一時支柱から外し、本柱にまきつけてあつた。)中の約一二メートル(時価約金一…