売主が他人の権利を自己のものと装つて売却した場合でも他人の権利を目的とする売買として契約は有効に成立する。
売主が他人の権利を自己のものと装つて売却した場合における契約の効力
民法560条
判旨
他人の権利を目的とする売買(他人物売買)において、売主の帰責事由により権利移転が不能となった場合、買主は債務不履行の一般原則に従い、転売利益を含む履行利益の損害賠償を請求できる。
問題の所在(論点)
他人物売買の売主が、目的物を自己の所有物であると称して売買契約を締結した場合において、当該権利の移転が不能となった際の売主の責任は、信頼利益の賠償を目的とする不法行為等に限定されるのか、あるいは履行利益の賠償を含む債務不履行責任(民法560条、415条等)を負うのか。
規範
他人物売買の売主が、その責に帰すべき事由によって権利を取得し買主に移転することができない場合には、履行不能の債務不履行責任として、相当因果関係に立つ全損害(履行利益)の賠償義務を負う。この点、契約時に売主が自己の所有物と主張していたか、他人物であることを明示していたかは問わず、停止条件付契約でない限り契約は有効に成立する。
重要事実
売主Dは、本件土地につき第三者Eから所有権を争う訴訟が提起されていることを知りながら、これを隠して自己所有地として上告人に売却し代金を受領した。その後、Eの勝訴が確定したことで、上告人名義の登記が抹消され、Dは上告人への権利移転が不可能となった。上告人はDの相続人らに対し、債務不履行に基づき、転売利益相当額を含む損害賠償を請求した。
あてはめ
Dと上告人の契約は、Dが自己の所有と偽っていたとしても他人物売買として有効に成立する。DはEとの紛争を知りながらあえて売却しており、権利取得不能には帰責事由が認められる。また、履行不能は社会通念に従い判断されるべきであり、本件ではEの勝訴確定により確定的に不能となったといえる。したがって、Dの相続人は、特段の事情がない限り、転売利益を含めた履行利益相当の損害を賠償すべき責を負う。
結論
Dの相続人らは、上告人に対し、履行不能に基づく債務不履行責任として、履行が得られていれば得られたであろう利益(転売利益等)を含む損害を賠償する義務を負う。
実務上の射程
他人物売買における担保責任(旧法下)と債務不履行責任の関係を整理した判例。契約時に売主が所有者であると装っていた場合でも、契約自体を無効とせず、有効な債務不履行責任(履行利益の賠償)の枠組みで処理する実務上の指針となる。答案上は、他人物売買が有効であること、および債務不履行の一般原則が適用されることを論証する際に用いる。
事件番号: 昭和26(オ)683 / 裁判年月日: 昭和29年9月21日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】売主が他人の所有物であることを知りながら、自己の所有物であると虚偽の告知をして買主を誤信させ、売買契約を締結させた場合には、民法96条1項の詐欺による意思表示が成立し得る。また、売買目的物が他人の権利である場合には、契約上の解除等(民法561条等)の請求も認められ、当事者が法律条文を特定しなくとも…
事件番号: 昭和34(オ)757 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】名義貸人の責任(商法14条、旧23条)が認められるためには、名義貸人が自己の商号を使用して営業を行うことについて、他者に対し明示または黙示の承諾を与えていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、訴外Dとの間で取引を行った。しかし、Dには被上告人(被告)を代表または代理する権限がなかっ…