判旨
債権者が誰であるかを確認し難い事情があり、債務者に履行の準備が整っていた場合には、履行遅滞の責めに帰すべき事由がないと解される。また、債権者の受領拒絶が確実な状況下での遅れた弁済提供であっても、信義則上有効な提供として認められ、債務不履行にはあたらない。
問題の所在(論点)
賃料の支払遅延がある場合において、(1)正当な債権者の確定が困難な事情が債務者の帰責事由を否定する根拠となるか、(2)履行期後の提供であっても信義則上有効な提供として債務不履行責任を免れさせることができるかが問題となる。
規範
債務者が履行期に履行しなかったとしても、その不履行について債務者に故意・過失またはこれと同視すべき信義則上の違背が認められない場合には、帰責事由がないものとして履行遅滞の責任を負わない。また、債権者の態度から事前提供をしても受領を拒絶したであろうことが推認される状況下では、履行期後の提供であっても信義則上有効な提供として認められ、債務不履行は成立しない。
重要事実
賃借人(被上告人)は、長年賃料の支払を怠ったことがなかったが、賃貸人(上告人)側からの通知等の事情により、正当な受領権者が誰であるか確認し難い状況に置かれた。賃借人は、真の権利者が判明すれば直ちに支払えるよう準備を整えていた。その後、上告人を正当な債権者と確信した時点で遅滞していた賃料を持参したが、上告人は「明渡が先決」として受領を拒絶した。上告人は、賃料不払を理由に賃貸借契約の解除を主張した。
あてはめ
(1) 被上告人は、従来一度も延滞がなく、債権者の確認が困難な状況下で履行の準備を継続していた。この点、債権者の受領という協力が必要な債務の性質に鑑みれば、不履行につき故意・過失や信義則違背はなく、帰責事由が否定される。(2) 実際に提供した際、上告人は明渡を優先し受領を拒絶しており、以前に提供しても同様の拒絶がなされたと推察される。このような上告人の受領拒否は信義則に反し、被上告人の提供は遅延しているとはいえ有効な提供と解すべきである。よって、被上告人に債務不履行の責はない。
結論
被上告人に債務不履行の責はなく、上告人による賃貸借契約の解除権の行使は正当とはいえない。
実務上の射程
債務不履行に基づく解除に対する抗弁として、「帰責事由の欠如(民法415条1項但書)」および「信義則上の弁済提供(同493条但書)」を構成する際の根拠となる。特に、債権者不確知の場合の帰責事由の判断や、履行期後の提供であっても受領拒絶の態度が明白な場合に解除を阻止し得る射程を持つ。
事件番号: 昭和26(オ)357 / 裁判年月日: 昭和29年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が善管注意義務等に違反して賃借物に変更を加えた場合であっても、賃貸借契約の存続中は、賃貸人は原状回復を求める権利を有しない。 第1 事案の概要:賃借人が賃借物の形状等に変更を加えた事実が認められる事案において、賃貸人がその原状回復を求めて提訴した。判決文からは変更の具体的な内容や契約の存続状…