判旨
不法行為に基づく損害賠償において、加害行為が被害者の障害の全面的原因であると認められる場合には、その後の病状等の事情を考慮して損害賠償額を制限することはできず、諸般の事情を参酌して算定された慰謝料額は正当である。
問題の所在(論点)
加害行為が損害の「全面的原因」と認められる場合において、その後の病状等を理由に損害賠償額(慰謝料)を減額・制限することが許されるか。
規範
不法行為(民法709条)に基づく損害賠償額の算定において、加害者の行為と被害者の損害(身体障害等)との間に相当因果関係が認められ、かつ当該行為が損害の「全面的原因」であると認定される場合には、その損害の全責任を加害者が負うべきである。この場合、損害賠償額(慰謝料等)の算定に際しては、加害行為の態様や被害の程度といった諸般の事情を総合的に考慮して、社会通念上相当な額を決定する。
重要事実
上告人ら(加害者)は、被上告人(被害者)に対して傷害行為に及んだ。この傷害行為により、被上告人には身体障害が残った。上告人らは、被上告人のその後の病状等を理由に、自らの行為が損害の全面的原因ではないこと、あるいは慰謝料額が過大であることを主張して争った。
あてはめ
原審の認定によれば、被上告人の身体障害は上告人らの傷害行為が「全面的原因」となって生じたものである。証拠に照らしてもこの認定は合理的であり、上告人らが主張するような独自の事実(病状の推移等による影響)を前提とした反論は採用できない。したがって、加害行為が損害の全責任を負うべき原因である以上、それと相容れない事実を前提に慰謝料額が過当であるとする主張は認められない。原審が諸般の事情を参酌して算定した慰謝料5万円は、相当な範囲内にあるといえる。
結論
上告人らの傷害行為が損害の全面的原因である以上、諸般の事情を考慮して決定された慰謝料額は正当であり、減額の必要はないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和28(オ)406 / 裁判年月日: 昭和30年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づき、捜査機関への誤った犯人申告によって被申告者が勾留され、新聞記事で名誉を毀損された場合、その間に警察官や検察官の判断、新聞記者の取材行為等が介在したとしても、相当因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:上告人は、確たる証拠がないにもかかわらず、漠然とした記憶に基づいて軽々しく被…
実務上の射程
本判決は、因果関係が強固に認められる(全面的原因である)場合には、加害者の賠償責任を軽減させる余地が乏しいことを示している。答案作成上は、民法709条の損害算定の場面で、被害者側の素因や後発的事象が介在しない場合の「原則的な賠償範囲の確定」を確認する際に参照される。
事件番号: 昭和30(オ)310 / 裁判年月日: 昭和31年12月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】名誉毀損により精神的苦痛を被った場合、その後に嫌疑が晴れ名誉・信用が回復したとしても、既に生じた損害に対する慰謝料支払義務は消滅しない。 第1 事案の概要:上告人は、過失により被上告人の名誉を毀損し、被上告人に堪え難い精神的苦痛を与えた。その後、被上告人の嫌疑が完全に冤罪であることが公表され、被上…
事件番号: 昭和37(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和38年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他者を侮辱する言動が不法行為(民法709条)を構成する場合、被害者の言動等の諸事情を斟酌して慰謝料額を算定することが認められる。また、具体的な侮辱行為が権利侵害に当たるとした原審の判断は、特段の事情がない限り正当として維持される。 第1 事案の概要:上告人(控訴人)が被上告人(被控訴人)に対し、原…