判旨
売買代金の取立委任と弁済受領権限の授与は別個の事実であり、特定の者が代金を請求し相手方が支払う際にそれを受領する権限が与えられていれば、有効な代理受領が成立する。
問題の所在(論点)
一般的な取立代理権が認められない場合に、弁済受領の権限のみを認めることが可能か。また、その場合に債務者(支払者)の過失の有無を審理する必要があるか。
規範
特定の債権について「取立の委任」が認められない場合であっても、債務者が支払う際にこれを受領する権限(弁済受領の代理権)のみを個別に授与することは可能である。この場合、当該代理人に対する弁済は本人に対する弁済としての効力を生じ、債務者の過失の有無を問わず、民法上の代理の規定(本判決当時は旧法)により有効な弁済となる。
重要事実
上告人(売主)が、第三者Dに対し、被上告人(買主)から本件売買代金を取り立てるための包括的・一般的な代理権を与えていたかが争われた。原審は、Dに一般的な取立代理権があったとは認めなかったが、Dが被上告人に対して代金を請求し、被上告人がこれに応じて支払う際に、上告人の代理としてこれを受領する権限(限定的な受領権限)は与えられていたと認定した。
あてはめ
取立の委任と、支払の際の受領権限授与とは別個の事実である。本件において、上告人はDに対し、被上告人が支払う場面における受領権限を与えていたと認定できる。これは任意代理権の授与(有権代理)に該当するため、表見代理の成否を論ずる必要はなく、したがって被上告人に過失があったかどうかを審理する必要もない。
結論
Dに対する弁済は有効であり、上告人の請求は認められない。上告棄却。
実務上の射程
司法試験においては、弁済受領の権限の有無が争点となる事案で、包括的な代理権(取立委任)の存否だけでなく、特定の受領行為に限定された代理権授与の有無を検討する際に活用できる。また、有権代理が認められる場合には、表見代理の要件である「善意無過失」の検討が不要になるという訴訟法・実体法上の構成を再確認させる事例である。
事件番号: 昭和31(オ)893 / 裁判年月日: 昭和32年11月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が売買契約の成立を主張している場合、裁判所がその代理人によって契約が締結されたと認定しても、処分権主義(民訴法246条)には反しない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)との間に売買契約が成立したと主張して訴えを提起した。これに対し、原審(控訴審)は、当該売買契約が被上告人…