判旨
土地の賃貸借が終了した場合、賃借人は特段の規定又は合意がない限り、土地を賃貸借開始当時の原状に回復して返還すべき義務を負う。したがって、賃借人は借地上に附属させた自己所有の建物を収去する義務を当然に負担する。
問題の所在(論点)
土地賃貸借の終了に伴う返還義務の内容として、賃借人は特段の合意がない場合であっても、借地上に自らが建築した建物を収去して原状に復する義務(民法616条、598条、現行621条参照)を負うか。
規範
土地賃貸借が終了した際、賃借人は、法令上の特段の規定や当事者間の特段の合意がない限り、用法に従った使用収益により生じた変動を除き、土地を賃貸借開始当時の原状に回復して返還すべき義務(原状回復義務)を負う。この義務には、賃借人が土地に附属させた工作物等を収去する義務が含まれる。
重要事実
上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間の土地賃貸借契約が終了した。被上告人は上告人に対し、借地上の建物を収去して土地を明け渡すよう求めたが、上告人は、建物を収去する権利はあるが特段の契約がない限り収去義務は負わないと主張して争った。第一審および原審は被上告人の請求を認めたため、上告人が最高裁に上告した。
あてはめ
賃貸借契約は、期間満了等により終了したときは目的物を原状に復して返還するのが原則である。本件において、上告人は賃貸借後に建物を附属させているが、これについて収去を免除するような特段の規定や契約の存在は認められない。そうである以上、借地を「賃貸借開始当時の原状」に回復すべき義務の一環として、当該建物を収去すべき義務を負うと解される。
結論
土地賃借人は、賃貸借終了時に特段の合意がない限り、借地上の建物を収去して土地を返還する義務を負う。したがって、被上告人の建物収去土地明渡請求を認めた原判決は正当である。
事件番号: 昭和26(オ)829 / 裁判年月日: 昭和29年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃借人の債務不履行により賃貸借契約が解除された場合、その建物に居住する占有者は、賃借人が建物を収去し土地を明け渡すべき義務を負う以上、これを妨げて占有を継続する権限を有しない。 第1 事案の概要:土地賃借人Dは、被上告人(土地賃貸人)から本件土地を賃借し、地上に建物を所有していたが、賃料不払に…
実務上の射程
土地賃貸借終了時の原状回復義務の内容を明確化した基本判例である。現行民法621条の解釈においても、建物の収去義務がこの原状回復義務に含まれることを説明する際の根拠となる。答案上は、明渡請求の要件としての「原状回復義務の帰結」を論じる際に、この判例の理屈を用いる。
事件番号: 昭和36(オ)696 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
賃貸借の対象たる土地に対し、土地区画整理法に基づき換地予定地の指定がなされた結果、賃借人が従前の土地の使用収益を禁じられ、換地予定地の使用収益すべきことになつたとしても、これによつて従前の土地の賃貸借そのものが消滅に帰したわけではなく、その約定賃料もまた換地予定地の地積いかんにより当然増減するものではない。
事件番号: 昭和26(オ)333 / 裁判年月日: 昭和29年2月5日 / 結論: 破棄差戻
賃貸土地が法令上当然に信託財産となつたときは、委託者たる土地所有者は、爾後右土地につき賃貸借の解約申入をすることができない。
事件番号: 昭和26(オ)719 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか否かは、個別の事案における事実関係に基づいて判断される。本件のような事実関係の下では、当該請求が民法1条3項にいう権利の濫用に当たらないことは明白である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本件建物の収去及び土地の明渡請求について争い、その請求が…
事件番号: 昭和31(オ)743 / 裁判年月日: 昭和33年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の競落人が敷地の賃借権を承継したと主張しても、競落時点で既に賃貸借契約が解除により消滅していた場合には、承継の余地はなく、建物収去土地明渡しを免れない。また、賃貸人が譲渡を承諾しないことが権利の濫用にあたるという主張は、賃借権の譲渡の事実自体が認められない場合には、その前提を欠く。 第1 事案…