判旨
農地の遡及買収において、基準日時点で所有権が移転していたか否かは、証拠資料に基づき実質的に判断される。土地売渡証等の書面が存在しても、それが後日に作成されたと推認される場合には、基準日における所有権移転を否定し得る。
問題の所在(論点)
自作農創設特別措置法による農地の遡及買収において、買収基準日時点での所有権帰属をどのように認定すべきか。特に、作成日付が遡及された疑いのある書証の評価が問題となる。
規範
自作農創設特別措置法に基づく農地の遡及買収の適否は、買収基準日(昭和20年11月23日)時点における客観的な所有権の帰属状態によって決せられる。書証(土地売渡証等)の証拠力については、その作成経緯や時期を総合的に考慮し、事実認定上の専権に基づきその真実性を判断する。
重要事実
上告人は本件農地を取得したと主張したが、原審は証拠を総合して、基準日である昭和20年11月23日当時、本件農地は依然としてD及びEの所有に属しており、上告人への所有権移転は未了であったと認定した。また、上告人が提出した甲第1号証(土地売渡証)は、記載された日付よりも後日に作成されたものと推認され、上告人の主張に沿う人証も採用されなかった。
あてはめ
原審が認定した事実によれば、基準日時点で所有権は依然として旧所有者にあり、上告人には移転していなかった。提出された土地売渡証は、形式的な日付にかかわらず後日作成されたものと合理的に推認される。このような事実認定は、証拠の自由な評価に基づく合理的な範囲内のものであり、登記の有無等の事情を考慮するまでもなく、基準日における所有権移転を否定した判断は是認される。
結論
本件農地の遡及買収時において上告人は所有権を取得していなかったため、買収は有効である。上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和30(オ)670 / 裁判年月日: 昭和32年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定における証拠の取捨選択は裁判所の自由裁量に委ねられており、引用された証拠から認定事実が導き出せる限り、採証法則違反の違法は認められない。 第1 事案の概要:農地遡及買収の基準日(昭和20年11月23日)時点における本件農地の所有者が誰であったかが争点となった事案である。原審は、証拠に基づき…
本判決は、事実認定の専権を強調するものであり、特に遡及買収のような過去の権利関係が問題となる事案において、書面の作成日付が実態と異なる場合の認定手法を示唆している。答案上は、時系列に沿った権利移転の成否が争点となる場合に、形式的な書面の存在だけでなく実質的な作成時期の重要性を指摘する際に参照し得る。
事件番号: 昭和24(オ)221 / 裁判年月日: 昭和25年8月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法附則2項に基づき、指定期日現在の事実に遡及して農地買収計画を定めることは、農地改革を免れる脱法行為を防止する趣旨から、特段の事情がない限り「相当」と認められる。 第1 事案の概要:上告人は本件農地の買収計画が定められた時点ではその所有者であった。しかし、指定期日である昭和20年…
事件番号: 昭和31(オ)762 / 裁判年月日: 昭和33年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】登記簿上の所有者を対象とした農地買収処分は、真実の所有者と異なる場合であっても当然無効とはならず、出訴期間内に取消訴訟を提起しない限り、その効力を争うことはできない。 第1 事案の概要:上告人の所有地であった本件農地につき、登記簿上はD合資会社の所有名義となっていた。政府は登記に基づき、D社を対象…
事件番号: 昭和28(オ)657 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 破棄差戻
登記簿上の所有者を所有者としてした農地買収処分は、真の所有者がこれを知りまたは知り得べき状態にあつたにかからず、不服申立の方法を採らなかつた場合は、当然には無効ではない。