所論は、原判決が大審院判例(大正八年(オ)第八四八号同年一一月二四日判決、民録二五輯二〇九六頁)に違反すると主張するのであるが、論旨引用の判例は、結局貸借人の承諾ありて始めて貸借物を転貸することができるという趣旨であつて、貸借人が賃貸人の承諾を得ないで転貸した場合常に賃貸人に解除権が発生するかどうかを判示しているのでないから、本件に適切であるとはいえない。
判例違反にならない一事例(転貸による解除権の発生の有無)
判旨
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物を使用させた場合であっても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項に基づく解除権を行使できない。
問題の所在(論点)
民法612条2項による解除の可否につき、賃借人による無断譲渡・転貸があれば、いかなる場合であっても賃貸人は当然に契約を解除できるのか、それとも信頼関係の破壊という観点から制約を受けるのか。
規範
賃貸借契約は当事者間の個人的信頼関係を基礎とする継続的契約である。したがって、賃借人が賃貸人の承諾なくして第三者に賃借物の収益・使用をさせた場合であっても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、民法612条2項の解除権は発生しない(背信関係理論)。
重要事実
賃貸人の承諾を得ることなく、賃借人が第三者に対して賃借物を転貸した。これに対し、賃貸人は民法612条2項に基づき、無断転貸を理由として賃貸借契約の解除を主張し、仮処分を申し立てた。原審は、当該無断転貸が直ちに賃貸人に対する信義を裏切るものとはいえない(背信的行為に当たらない)と判断し、賃貸人の請求を認めなかった。なお、具体的な転貸の経緯や賃借人と転借人の関係等の詳細な事実は本判決文からは不明である。
あてはめ
民法612条2項は、無断転貸があれば常に解除権が発生することを定めたものではない。本件においては、被上告人(賃借人)による無断転貸がなされたものの、それが「賃貸人に対する信義を裏切った場合」に当たるかどうかが重要である。原判決が疎明に基づき、一応の判断として本件の転貸が背信的行為に当たらない(信頼関係を破壊しない)と判断したことは、法解釈として妥当であり、違法とはいえない。
結論
賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、無断転貸を理由とする解除は認められない。上告を棄却する。
実務上の射程
民法612条2項の適用を制限する「背信関係理論」を初めて確立したリーディングケース。答案では同条の解除を検討する際、形式的に無断譲渡・転貸の事実に該当するとしても、信頼関係の破壊が認められない特段の事情(親族間での名義変更や、実質的な経営主体の同一性など)がある場合には、解除権が否定される旨の論証として活用する。
事件番号: 昭和28(オ)53 / 裁判年月日: 昭和31年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】対抗要件を備えた土地賃借人は、賃借権に基づき、土地を不法に占有する第三者に対して直接妨害排除請求をすることができる。 第1 事案の概要:本件において上告人は土地賃借人であり、その賃借権について第三者に対する対抗要件を備えていた。当該土地を不法に占有・妨害する第三者(被上告人側)に対し、賃借権に基づ…