不法原因による給付であつても、右給付を返還すべき合意が成立したときは、右合意に基く返還請求については民法第七〇八条の適用はない。
不法原因による給付を返還すべき合意に基く返還請求と民法第七〇八条
判旨
不法原因給付に該当する給付がなされた場合であっても、当事者間で当該契約を解除して給付を返還する旨の合意が成立したときは、民法708条の適用はなく、当該合意に基づき返還を請求できる。
問題の所在(論点)
不法原因給付に該当する契約に基づき給付がなされた後、当事者間で成立した「給付を返還する旨の合意」は、民法708条の適用を受けずに有効な請求権の根拠となり得るか。
規範
不法原因給付(民法708条)に該当する原因に基づいて給付がなされた場合であっても、当事者が任意に当該契約を解除し、給付物を返還すべき旨の合意(返還合意)を成立させたときは、同条の適用は排除される。したがって、当該合意に基づく返還請求権の行使は、訴訟上許容される。
重要事実
上告人と相手方との間で、物価統制令に違反する価格での売買契約が締結され、これに基づき物品等の給付がなされた。しかし、後に両当事者は当該契約を解除し、給付されたものを返還する旨の合意(返還合意)を成立させた。その後、当該合意に基づき返還を求めたところ、給付が不法原因給付(民法708条)に当たるとして、返還請求の可否が争われた。
あてはめ
本件における原因契約は物価統制令違反であり、それに基づく給付は不法原因給付に該当し得る。しかし、当事者間において当該契約を解除した上で、給付を返還すべき旨の新たな合意が成立している。民法708条は不法な原因に基づく給付の返還請求を拒むものであるが、当事者の自由な意思に基づく返還合意までを禁止するものではない。本件では適法に返還合意が成立したと認められる以上、同条の適用はなく、当該合意に基づく請求は正当であると解される。
結論
物価統制令違反の契約を解除して給付を返還する合意が成立したときは、民法708条の適用はなく、返還請求が可能である。
実務上の射程
不法原因給付の「反射的利益」を制限する法理として重要である。公序良俗違反等で給付がなされた後でも、当事者が任意に原状回復を合意した場合には、その合意の有効性を認めて履行を強制できることを示している。答案上は、708条の適用を検討した上で、返還合意の有無という別個の構成で請求を肯定する際に活用すべき判例である。
事件番号: 昭和28(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法708条は、不法原因給付の返還請求に法律上の保護を与えないだけであり、受領者が任意に返還することや、当事者間で返還を合意する契約を締結することは同条および公序良俗に反せず有効である。 第1 事案の概要:被上告人が上告人に対し、売買契約に基づき代金を前渡したが、当該契約は統制法規に違反し無効であ…