価統制令に違反した価額で魚粕を買い受けるものであることを知りながら、その買主に買受資金を貸与した場合であつても、原審認定の事情(原判決理由参照)の下になされたものであるときは、民法第七〇八条の適用はなく、貸主は貸金の返還を請求することができる
法第七〇八条の適用のない事例
判旨
公序良俗に反する取引であることを知りながらその資金を貸し付けた場合であっても、消費貸借契約自体が直ちに無効となるわけではなく、不法原因給付(民法708条)の返還請求禁止にも当たらない。
問題の所在(論点)
物価統制令違反という公序良俗に反する取引の資金として貸し付けられた金銭消費貸借契約が、民法90条により無効となるか、また民法708条の不法原因給付に該当し返還請求が否定されるか。
規範
刑罰法規に違反する行為が存在しても、それに関わる契約が当然に公序良俗(民法90条)に反して無効となるわけではない。契約の成立過程に多少の不法な点があっても、法律行為の目的自体が公序良俗に反せず、かつ道義的に著しく非難されるべきものと認められない限り、民法708条の「不法な原因」には当たらない。
重要事実
上告人Aは、訴外Dとの間で物価統制令に違反する売買契約を締結した。被上告人は、上告人Aが統制違反の売買を行うことを知りながら、その買受資金をAに貸し付けた(本件金銭消費貸借契約)。その後、被上告人が貸金の返還を求めたところ、上告人側は本件貸付が公序良俗に反し、不法原因給付に当たるとして返還を拒んだ。
あてはめ
本件で物価統制令に違反したのはAとDの売買であり、被上告人とAとの間の貸金契約自体が統制違反行為そのものではない。被上告人は単にAの違反事実を知って資金を貸与したに過ぎない。この契約の成立過程には多少の不法な点があるといえるものの、消費貸借という法律行為自体は公序良俗を目的とするものではなく、社会通念上、道義的に著しく非難されるべきものとまでは評価できない。
結論
本件金銭消費貸借契約は有効であり、民法708条の不法原因給付にも該当しないため、貸金の返還請求は認められる。
実務上の射程
公序良俗違反の取引への加担行為(いわゆる不法動機の助成)が、どの程度の強度であれば契約が無効・返還不可となるかの境界を示す。単なる知情のみでは「著しい非難」に値せず、契約の有効性や返還請求権を否定しないという判断枠組みは、現代の闇金事案や公序良俗違反が問題となる場面でも基礎となる。
事件番号: 昭和27(オ)13 / 裁判年月日: 昭和29年8月31日 / 結論: 破棄差戻
消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があつたとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比しきわめて微弱なものに過ぎない場合には、民法第九〇条および第七〇八条は適用がなく、貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するのを相当とする。