判旨
隠居時の財産留保の意思表示は、隠居の前に確定日付ある証書でなされれば足り、隠居時までその意思が持続していると認められる限り、確定日付から隠居まで時間的間隔があっても有効である。また、財産留保が遺留分を侵害しているとの主張は抗弁であり、それを主張する側に主張・立証責任がある。
問題の所在(論点)
1. 隠居に伴う財産留保の意思表示において、確定日付のある証書の作成時期と実際の隠居の時期に時間的間隔がある場合、その効力は認められるか。 2. 財産留保が家督相続人の遺留分を侵害しているという事実は、誰が主張・立証責任を負うか。
規範
旧民法下の隠居に伴う財産留保(旧民法987条、988条参照)において、その意思表示は隠居前に確定日付ある証書によってなされれば足り、必ずしも隠居と同時または近接した日付であることを要しない。確定日付と隠居の間に時間的間隔があっても、隠居の際に留保の意思が持続していれば、その意思表示は有効である。また、留保が遺留分を侵害している事実は、その効力を争う側が主張・立証すべき抗弁事項である。
重要事実
上告人の父である亡Dは、大正11年3月30日に確定日付のある証書をもって、本件不動産を自己に留保する意思表示をしたが、実際の隠居は大正13年8月30日であった。Dが財産を留保した背景には、長男(上告人)が家業を嫌い、分与された財産を処分した上、父の実印を無断で使用して土地に抵当権を設定し借財を重ねるなど、Dが自身の死後を憂慮せざるを得ない事情があった。上告人は、確定日付から隠居まで期間が空いていることや、留保された財産が全財産であり遺留分を侵害していること等を理由に、留保の効力を争った。
あてはめ
1. Dは大正11年に確定日付ある証書で意思表示を行い、その後隠居する大正13年までその意思を持続していたと推断できる。反対の事情がない限り、時間的間隔があっても意思表示の効力は失われない。 2. 財産留保が遺留分を侵害しているという主張は一種の抗弁である。したがって、留保を主張する側が「遺留分に反しないこと」を立証するのではなく、それを争う側(上告人)が遺留分侵犯の事実を主張・立証すべきであるが、原審においてその主張はなされていない。
結論
隠居の際、留保の意思が持続していると認められる以上、確定日付との間に時間的間隔があっても財産留保は有効である。また、遺留分侵犯の主張・立証がない以上、その点は考慮されない。
事件番号: 昭和25(オ)240 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】時効の援用は訴訟上の防御方法としての性質を有するため、事実審である第二審の口頭弁論終結後にはこれを行うことができない。 第1 事案の概要:上告人(被告)は、特定の物件(目録記載の物件)について取得時効が成立していると主張し、上告審において初めて取得時効の援用を行った。原審(第二審)の口頭弁論終結時…
実務上の射程
明治民法下の家督相続に関する判例であり現代の直接的適用場面は限られるが、意思表示の効力持続に関する論理や、権利を妨げる事実(遺留分侵害等)の主張・立証責任が抗弁として構成されるという法理は、現在の民事訴訟法・実体法の解釈においても参照し得る。
事件番号: 昭和27(オ)368 / 裁判年月日: 昭和29年12月24日 / 結論: 棄却
一 隠居者の財産保留は、家督相続人との合意の下になされたときは、確定日附がなくとも、当事者間においては効力があるものと解するを相当とする。 二 隠居者が確定日附ある証書による財産保留をしなかつたため、家督相続人において建物の所有権を相続したとしても、原審認定の事実(原判決参照)の下に、隠居者がこれを有効に保留し得たもの…
事件番号: 昭和24(オ)326 / 裁判年月日: 昭和25年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他主占有から自主占有への転換が認められるためには、権原の性質上所有の意思がないものと認定される占有において、客観的にみて所有の意思があるものと解される事情が必要である。 第1 事案の概要:被上告人の先代Dは、本件不動産を「家産」として所有し、その散逸を防止するために上告人A1夫婦に管理させていた。…
事件番号: 昭和29(オ)55 / 裁判年月日: 昭和30年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】遺留分減殺請求権(現:遺留分侵害額請求権)は、時効完成の利益の放棄とは別に、権利そのものを事前に又は事後に放棄することが可能である。 第1 事案の概要:訴外Dは、遺留分を侵害する贈与等があった事案において、遺留分減殺請求権を有していた。Dは、当該減殺請求権について時効が完成する前後を問わず、当該権…
事件番号: 昭和29(オ)909 / 裁判年月日: 昭和31年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が登記申請の事実や抵当権設定通知を認識しておらず、かつ妻らが債務の支払を本人に秘匿して行っていた場合には、無権代理行為に対する本人の追認があったとは認められない。 第1 事案の概要:被上告人の所有権移転登記につき権利証が添付され、抵当権設定登記に関する通知が法務局からなされた事実があった。しか…