判旨
事実認定における証拠の取捨選択や評価は、経験則に反するなどの特段の事情がない限り、原審の自由な裁量に属する。また、審理の熟成判断や弁論再開の是非も裁判所の裁量事項であり、手続上の違法がない限り上告理由とはならない。
問題の所在(論点)
事実認定において証人が述べた具体的数値(札束の厚み等)に不自然な点がある場合、その証言を基礎とした事実認定は経験則違背となるか。また、証拠調べの採否や弁論終結の判断はどの程度裁判所の裁量に属するか。
規範
事実の認定、証拠の取捨選択、および証拠の証明力の判断は、専ら事実解明を担う原審の裁量(自由心証主義)に委ねられる。これらが経験則や論理則に違反しない限り、適法なものとして維持される。また、証拠調べの範囲、審理の熟成度、弁論の再開の要否に関する判断も同様に訴訟指揮権に基づく裁判所の合理的な裁量に属する。
重要事実
建物の売買代金等の残金2万5千円の支払事実が争点となった事案である。第一審および原審は、証人Dの「移転登記当日に現金を受け取った」旨の供述等を採用し、支払の事実を認定した。これに対し上告人は、(1)証人Dが100円札250枚(厚さ1寸程度)を「4寸」と供述した点は明白な虚偽であり、かかる証言を採用して支払を認めた認定は経験則に反すること、(2)裁判所が検証を実施せず、また弁論を不当に終結させたこと等の訴訟手続の違法を主張して上告した。
あてはめ
証人Dが札束の厚みを実際より厚く供述した点は認めるが、その事実をもって直ちに「現金が存在しなかった」と推断することはできない。原審は他の関係証拠や争いのない事実を総合して支払事実を認定しており、特定の証言の一部に不正確な点があるからといって、直ちに経験則違背の違法があるとはいえない。また、記録上、検証の申請や決定の事実は認められず、証拠調べの限度や弁論再開の是非は原審の裁量に属する事項である。本件では、審理不尽や手続上の違法を認めるに足りる事跡は存在しない。
結論
原審の事実認定に経験則違背の違法はなく、また訴訟手続にも違法はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
自由心証主義(民訴法247条)の限界を示す事例である。証言の一部に客観的事実(物理的な厚み等)と齟齬があっても、証拠全体の総合的な評価として事実を認定できる場合、上告審が介入できないことを示唆している。実務上は、裁量権の逸脱・濫用を基礎付ける具体的な違法事由(審理不尽や矛盾)を特定できない限り、事実認定の不当性を争うことは困難である。
事件番号: 昭和23(オ)110 / 裁判年月日: 昭和25年4月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定の前提となる証拠の取捨判断は、特段の事情がない限り、原審である事実審の専権に属する事項である。したがって、原審の証拠選択や事実認定に違法があるとする主張は、単なる事実誤認の主張であって、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決における事実認定に違法があるとして、複…
事件番号: 昭和34(オ)205 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の成否について、原判決の事実認定に法令違背はなく、証拠の取捨選択および判断は事実審の裁量に属する事柄であるとして、上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人は、相手方との間で売買契約が成立したと主張したが、原審(第一審および控訴審)は、上告人が主張する経緯の一部はむしろ売買が成立しない経緯…
事件番号: 昭和26(オ)475 / 裁判年月日: 昭和27年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定において証拠の信憑性を判断することは裁判所の専権に属し、実験則に反するなどの特段の事情がない限り、上告審がこれを覆すことはできない。 第1 事案の概要:上告人は、原審が特定の書証の字句解釈に基づいて「内金」の授受を認定したと主張し、その不当性を訴えて上告した。しかし、原審は実際には当該書証…