判旨
他主占有者が所有の意思があるものと認められるためには、民法185条に基づき、自己に占有させた者に対して所有の意思があることを表示するか、または新権原によりさらに所有の意思をもって占有を始めることを要する。
問題の所在(論点)
民法185条の「占有の性質の変更」が認められるための要件、特に留守番として居住を許された者が「所有の意思」をもって占有していると認められるための判断枠組みが問題となる。
規範
占有の性質が権原の性質上所有の意思のないもの(他主占有)とされる場合には、占有者が所有の意思をもって占有を開始したと認められるためには、①自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示するか、または②新たな権原(新権原)によってさらに所有の意思をもって占有を始める必要がある(民法185条)。
重要事実
上告人は、分家当時に素行が修まらなかったため、通例行われる家屋等の分与を受けられずに分家した。その後、上告人は所有者である訴外Dから、同人の留守番として本件家屋に居住することを許され、占有を開始した。上告人は、本件家屋の保存登記の日に贈与を受けて所有権を取得したと主張したが、原審はその事実を認めず、他主占有であると認定した。
あてはめ
上告人はDから留守番として居住を許されたものであり、その占有権原の性質上、所有の意思のない他主占有にあたる。上告人が自主占有へと転換するためには、Dの存命中にDに対して所有の意思があることを表示するか、あるいは贈与等の新権原によって占有を開始した事実が必要であるが、本件ではそれらを認めるに足りる証拠が存在しない。したがって、上告人の占有は依然として他主占有のままであると解される。
結論
上告人による本件家屋の占有は他主占有であり、民法185条所定の占有性質の変更も認められないため、所有の意思に基づく占有(自主占有)とは認められない。
実務上の射程
取得時効の成否が争われる事案において、占有の性質が他主占有と評価される場合の転換要件を提示したもの。留守番や賃貸借など、占有権原が客観的に他主占有である場合には、185条の要件(表示または新権原)を厳格に充足しない限り、時効取得は認められないという答案構成の論拠となる。
事件番号: 昭和31(オ)680 / 裁判年月日: 昭和34年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権担保の目的で所有権を取得し、その所有権が債務弁済により復帰すべき制限付きのものであることを知って占有を開始した場合、民法162条2項にいう「善意で所有の意思をもって」占有を開始したものとはいえない。 第1 事案の概要:上告人の先代は、被上告人に対する債権を担保する目的(売渡担保)で本件建物の所…
事件番号: 昭和25(オ)313 / 裁判年月日: 昭和28年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を他人の名義を借りて払い下げを受け、自己の費用で建物を建築した実質的権利者は、承諾なくなされた名義人による保存登記に拘束されず、当該建物の所有権を主張できる。 第1 事案の概要:被上告人は、上告人Aの名義を使用して建物の払下げを受け、自己の費用で当該建物(二棟)を分割建築した。しかし、上告人…
事件番号: 昭和45(オ)357 / 裁判年月日: 昭和45年10月29日 / 結論: 棄却
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて客観的に定められるべきものであるから、所有権譲受を内容とする交換契約に基づき開始した占有は、所有の意思をもつてする占有である。