判旨
不動産を他人の名義を借りて払い下げを受け、自己の費用で建物を建築した実質的権利者は、承諾なくなされた名義人による保存登記に拘束されず、当該建物の所有権を主張できる。
問題の所在(論点)
他人の名義を借りて不動産を取得し、自己の費用で建物を建築した場合、実質的権利者は名義人名義の登記に関わらず所有権を取得できるか。また、承諾なき保存登記の効力が問われた。
規範
不動産の所有権帰属は、特段の事情がない限り、代金を負担し自己の所有とする意思で取得した実質的権利者に帰属する。また、実質的権利者の承諾なく、名義借受人が自己の名義でなした所有権保存登記は、実体上の権利関係に合致しない無効な登記である。
重要事実
被上告人は、上告人Aの名義を使用して建物の払下げを受け、自己の費用で当該建物(二棟)を分割建築した。しかし、上告人Aは被上告人の承諾を得ることなく、当該建物について自己名義で所有権保存登記を経由した。被上告人は、自身が実質的な所有者であることを主張して争った。
あてはめ
被上告人が自己の費用で建物を建築した事実、およびAの名義を借りて払下げを受けた事実に鑑みれば、建物の実質的権利者は被上告人である。A名義の保存登記については、被上告人がこれに承諾した事実は認められず、実体的な権利移転(信託的譲渡や虚偽表示による移転等)も存在しない。したがって、登記名義にかかわらず被上告人が所有権を取得すると解される。
結論
被上告人が建物の所有権を取得する。実質的権利者の承諾なくなされた上告人名義の保存登記は、所有権の帰属を左右しない。
実務上の射程
他人名義で不動産を取得した際の実質的権利関係の認定方法を示す。答案上は、登記名義人と実質的権利者が異なる場合の物権変動の帰属や、94条1項等の虚偽表示、あるいは他人物売買の文脈で、真実の権利者が誰であるかを認定する際の基礎として活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)107 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 破棄差戻
一 甲から不動産を買受けた乙が、丙にその所有権を移転する意思がないに拘らず、甲から丙名義に所有権移転登記を受けることを承認したときは、民法第九四条第二項を類推し、乙は丙が所有権を取得しなかつたことを以て善意の第三者に対抗し得ないものと解すべきである。 二 乙が買受けた不動産につき単に名義上所有権取得の登記を受けたにすぎ…
事件番号: 昭和33(オ)416 / 裁判年月日: 昭和38年3月28日 / 結論: 棄却
一 甲が登記簿上乙の所有名義になつている甲所有の建物を丙に譲渡した後、丙の所有権取得登記前に、甲の債権者丁が右建物についてなした乙より甲への代位による所有権移転登記ならびに甲を債務者とする仮差押の登記は、いずれも有効である。 二 右仮差押の登記後丙の所有権取得登記がなされても、丙は建物所有権取得をもつて丁に対抗すること…
事件番号: 昭和33(オ)293 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】元本確定前であっても、債権者、債務者および譲受人の三者の合意がある場合には、特定の当座貸越契約から生じる債権を根抵当権と共に譲渡することが可能である。 第1 事案の概要:上告人とD銀行との間で当座貸越契約が締結されていたが、D銀行、上告人およびE銀行の三者間で債権者の交代による更改および根抵当権移…
事件番号: 昭和25(オ)173 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他主占有者が所有の意思があるものと認められるためには、民法185条に基づき、自己に占有させた者に対して所有の意思があることを表示するか、または新権原によりさらに所有の意思をもって占有を始めることを要する。 第1 事案の概要:上告人は、分家当時に素行が修まらなかったため、通例行われる家屋等の分与を受…