一 甲が登記簿上乙の所有名義になつている甲所有の建物を丙に譲渡した後、丙の所有権取得登記前に、甲の債権者丁が右建物についてなした乙より甲への代位による所有権移転登記ならびに甲を債務者とする仮差押の登記は、いずれも有効である。 二 右仮差押の登記後丙の所有権取得登記がなされても、丙は建物所有権取得をもつて丁に対抗することができない。
一 登記簿上第三者の所有名義になつている建物の譲渡人の取得登記前譲渡人の債権者がなした右第三者より譲渡人への代位による所有権移転登記ならびに譲渡人に対する仮差押の登記は有効か 二 右仮差押の登記後譲渡人の所有権取得登記がなされた場合の効力
民法177条,民法423条,民訴法737条,民訴法751条1項,不動産登記法46条ノ2
判旨
不動産の譲受人は、未登記の間に当該不動産を仮差押えした債権者に対し、その所有権の取得を対抗することができない。また、債務者の第三債務者に対する移転登記請求権を債権者が代位行使して債務者名義に登記を移した上でなされた仮差押登記は、実質的な所有権が譲渡済みであっても登記未了なら有効である。
問題の所在(論点)
不動産の譲受人は、登記未了の間に当該不動産を差し押さえた譲渡人の債権者に対し、所有権の取得を対抗できるか。また、債権者による代位登記および仮差押登記は、実質的な所有権が譲渡された後であっても有効か。
規範
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない(民法177条)。ここでいう「第三者」とは、当事者若しくはその承継人以外の者で、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう。不動産を仮差押えした債権者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当する。
重要事実
事件番号: 昭和36(オ)1219 / 裁判年月日: 昭和37年12月18日 / 結論: 棄却
権利取得が仮処分登記前であつても、権利取得登記が仮処分登記後になされたときは、権利取得者は、右権利取得を以て仮処分債権者に対抗し得ない。
建物はD名義で登記されていたが、実質的な所有権はEにあった。上告人はEから代物弁済として当該建物の所有権を取得したが、移転登記を行わなかった。その後、Eの債権者である被上告人らは、代位権を行使してDからEへ所有権移転登記を完了させた上で、本件建物に対して仮差押決定を得てその旨の登記を完了した。上告人が代物弁済による所有権取得登記を完了したのは、その後のことであった。上告人は、仮差押当時すでに実質的な所有権は自己に移転していたとして、被上告人らに対し所有権を主張した。
あてはめ
上告人はEから所有権を取得したものの、登記を了する前に被上告人らが本件建物を仮差押えしている。被上告人らは登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当するため、上告人は登記がない限り所有権取得を対抗できない。また、中間省略登記の合意等、登記請求権が消滅したと解すべき特段の事情がない限り、被上告人らによる代位登記および仮差押登記は有効である。上告人がその後に登記を具備したとしても、先に登記を得た仮差押権者である被上告人らには優先しない。
結論
上告人は、自己の所有権取得を被上告人らに対抗できず、被上告人らによる仮差押登記等は有効である。したがって、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
民法177条の「第三者」の範囲に差押債権者が含まれることを明示した基本判例である。答案上は、二重譲渡の事案と同様に、譲受人と差押債権者の優劣を「対抗関係」として捉え、登記の有無によって決するという枠組みで論じる際に活用する。
事件番号: 昭和30(オ)561 / 裁判年月日: 昭和32年6月18日 / 結論: その他
一 仮登記のなされた不動産につき第三者のための所有権取得の登記がなされたときにおいても、仮登記権利者は本登記をなすに必要な要件を具備する場合は、仮登記義務者に対しては本登記、右の第三者に対しては抹消登記の請求をなし得るものと解すべきである。 二 右の場合、仮登記権利者が右の第三者に対し不動産所有権の確認を求めることは許…
事件番号: 昭和33(オ)577 / 裁判年月日: 昭和36年6月9日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の買主は、所有権移転登記を経由していない限り、その後に同一不動産について売買予約に基づき請求権保全の仮登記を備えた第三者に対して所有権の取得を対抗できない。 第1 事案の概要:上告人A1はDに本件宅地を売却した。その後、DはEに贈与し、Eは被上告人に売却したが、いずれも登記を経由していなかっ…
事件番号: 昭和33(オ)880 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法177条の「第三者」とは、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する者を指す。したがって、不動産を不法に占有する者は、所有権の取得登記がないことを理由にその明渡請求を拒むことはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、債務者が貸金の弁済期に履行しないときは何らの意思表示を要せず貸金…
事件番号: 昭和36(オ)513 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲受人等の第三者が民法177条の「第三者」に該当しないとされるためには、単に権利の存在を知っているだけでは足りず、相手方の登記の欠如を主張することが信義則(民法1条2項)に反すると認められるほどの強い「害意」を有する背信的悪意者であることを要する。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本…